屋敷に戻った私は大急ぎで身支度を調えた。
 お風呂に入って全身を洗い、ラナに着替えを手伝ってもらう。
 スミレ色の瞳に合うよう今流行のフリルがあしらわれた、白と薄紫色を基調としたドレスだ。
 袖を通すと、お母様の形見である真珠とダイアモンドの装身具を身につける。
 髪はラナに緩く巻いてもらい、サイドを捻ってハーフアップに。目の下にできたクマは隠すためにベースメイクを念入りに。けれど厚化粧にならないよう自然な仕上がりにしてもらった。

「今日のお嬢様はいつも以上にお美しいですよう!!」
 姿見越しに話しかけてくるラナは完成した私の姿を見て満足げに頷いた。
「ありがとう。ラナのお陰でクマも隠れたし血色も良くなったわ」
「私の方こそ昨夜は眠ってしまって申し訳ございません」
「だけど朝はちゃんと起こしてくれたから助かったわ。あのままだったら寝過ごしていただろうから」
 ラナに起こしてもらうまで私はすっかり熟睡してしまっていた。彼女がいなければ今頃パーティーに遅刻していたかもしれない。
 私が目覚めた時にはアル様の姿はどこにもなかった。ラナ曰く、ラナが目覚めた時も彼の姿はなかったのだとか。恐らく私が寝落ちした後で目が覚めて帰ったのだろう。改めてお礼を言えなかったのは残念だ。
 明日アル様がお店に来てくれたら遅くまで付き合ってくれたお礼にクッキーをたくさん焼くつもりでいる。


「――さて。エンゲージケーキをフィリップ様のもとへ届けたら早いうちにお暇しましょう。今日は予定が詰まってるからね」
 私とラナは箱詰めしたエンゲージケーキと共にプラクトス伯爵の屋敷に向かった。
 受付開始直後だというのにパーティー会場である庭園は既に招待客で賑わっていた。私の時よりも出席者が多い気がするのは気のせいではないと思う。
 落ち目のキュール侯爵家と違ってカリナ様の実家であるライオット男爵家は金融業を営んでおり、近年勢いを増している。投資で一儲けしたいと考えるプラクトス伯爵家の親族たちはライオット家を歓迎し、少しでも利を得ようと男爵の周りに集まっていた。