助けを求めた時、真っ先に頭に浮かんだのはネル君でもエードリヒ様でもなく、アル様だった。
 アル様を一瞥すれば、これまで押しとどめていた感情が溢れてきて今まで以上にほわほわとした綿あめのような甘い感情に包まれる。
 ――これ以上自分の感情を無視して、蓋するなんてできそうにないわ。
 黙り込んでじっと見つめていたせいだろう。眉尻を下げたアル様が覗き込むようにして大丈夫か尋ねてくれる。
 ただでさえ溜め息が出るほど美しいアル様に至近距離で見つめられて、私は呼吸をするのも忘れて見入ってしまう。このままずっと眺めていたい。
 そう思ったところで、足下に何かが当たって下を向く。

 そこには黄色いレモンが転がっていて、私は漸く差し迫った状況を思い出した。
「早くパティスリーに戻らないと! エンゲージケーキを完成させるのに時間がないんです」
「そうだね。それじゃあ一緒にお店まで戻ろうか」
 アル様は私を解放すると地面に転がっているレモンを拾い集め始める。私も一緒にレモンを拾う。

 今は目の前のことに集中して明日を乗り切らなくてはいけない。
 私は気を引き締め直すと急いでアル様とパティスリーに帰った。