執事は私に対して慇懃な礼をした。
「お久しぶりです。キュール侯爵令嬢」
「ええ、久しぶり。プラクトス伯爵家の執事であるあなたがどうしてパティスリーの厨房まで来たの? 私がそちらと関わることはもうないわ。用件があるなら侯爵家を通して」

 随分冷たい声が出てしまって自分でも内心驚く。だが、相手はあのフィリップ様に仕える執事だ。こちらが塩対応するくらいは予想できているだろう。
 執事は顔色一つ変えることなく身体を捻ると侍従に前へ出るようにと指示を飛ばした。
 侍従はおずおずと頷くと銀の盆を両手に持って私の方へとやって来る。その上には一通の招待状があった。


「本日は明日開かれるフィリップ様の婚約パーティーの招待状を届けに参りました」
「はあ? 何ですって?」
 私はぴくりと片眉を動かした。

 どうして婚約破棄してきた男の婚約パーティーに私が出席しなくてはいけないのか。まったく意味が分からない。
 私はフィリップ様のあまりの図太さに辟易とした。開催日も明日だなんて急すぎる。

「当然のことだけど私は欠席させてもらうわ。予定だってあるし、急に参加しろと言われても困るの。早急に返事を書くから少しここで待っていて」
「いいえ、キュール侯爵令嬢は欠席することなどできません。できるはずないのですよ」

 執事の表情が一瞬だけ曇るのを見逃さなかった。
 私は胸騒ぎを覚えた。
「まさか……」
 招待状を手にすると封蝋を切って中の書面を開く。