簡単に要約すると私が作ったお菓子は野菜特有の青臭さや素材らしさが良い意味で消されているので野菜と知っていなければ気づかなかった。絶対にこれはバザーに出店させてもらうとのことだった。

 即決してもらえるなんて予想もしていなかったので状況を整理するために私は何度も読み返した。
 王妃殿下は普段穏やかでおっとりとした性格の方だけれど、自分が携わっている事業に関しては不正が起きないように堅実かつ峻厲(しゅんれい)に物事を判断して運営している。だから私のお菓子を食べても何らかの改善点を突きつけてくると身構えていたのに。

 蓋を開けてみれば厳しい言葉は一切なく、絶賛の言葉ばかりだったので拍子抜けしてしまった。
 私が呆けているとエードリヒ様が私の頭にぽんと手を置いて優しく撫でてくる。


「よく頑張ったなシュゼット。無理難題を出したにもかかわらず素晴らしいものを作ってくれた。美味しいお菓子を作ってくれたことに感謝する」
「私の方こそ依頼をいただけて光栄なのよ。……王妃殿下に喜んでいただけて嬉しい」
 頬を染めてはにかんでいるとエードリヒ様が私から視線を逸らして小さく咳払いをする。
「さて。ここからは母上からの要望になるんだが……急な話で申し訳ないが明日の午後二時に王宮へ来てもらえないか? バザーが開催されるのは二週間後だが、それまでに君が作った味を料理人たちが正確に再現できるように指導してもらいたい」

 バザー開催まで一ヶ月を切っている。当初は野菜を使ったお菓子を販売する予定はなかったから急ピッチで進めたいというのが王妃殿下の頭にはあるようだ。