「んんっ?」
 突然唸り声を上げられたので私は驚いて肩を揺らしてしまう。
 もしかして口に合わなかったのだろうか。
 アル様の表情からどんな感想を抱いているのかが読み取れない。ただ無心でタルトを食べている。

 完食したアル様は次にホウレンソウのシフォンケーキへと手を伸ばした。ゆっくりと口を開けてふわふわなシフォンケーキを食べる。それが食べ終わると今度はキャロットケーキを食べる。
 最初に呻り声を上げてから、アル様は一言も発さなかった。
 そうしてキャロットケーキの最後の一切れを口の中に放り込んで食べ終えると、最後に一度だけ頷いた。
 アル様の反応を見る限り美味しかったのか、美味しくなかったのかやっぱり判断がつかない。期待と不安が入り混じる中、私の胸の鼓動はいつもより速く脈打っている。エプロンを握り締める手のひらだって汗ばんでいた。
 固唾をのんで見守っているとナプキンで口元を拭き終えたアル様が私を見て相好を崩した。

「野菜と聞かされていたから僕の中に変な先入観があったみたい。ミニトマトのタルトはトマト特有の青臭さも酸味も美味く消されている。ホウレンソウのシフォンケーキだってほんの少し苦みはあるけど大人の味だと思えば気にならないし、そもそもホウレンソウだと言われないと分からないレベルだ。……これは凄いものを作ったね」
 私はアル様の感想を聞いてぱっと顔を輝かせた。
「それは本当ですか?」
「きっとこれなら皆美味しく食べてくれると思うよ。あ、もちろんキャロットケーキもとっても美味しかった。クリームチーズのフロスティングはさっぱりしていてとても食べやすいね。あとは王妃殿下の判断が必要だと思うけど、僕はどれもバザーに出して問題ないと思うよ」