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 パティスリーは身分の垣根を越えて人気のあるお店になりつつあった。
 初期投資の回収も無事に済み、最近は売上利益の一割をキュール家の借金返済にあてている。
 王宮長官として働くお父様の給金に加え、私の方から出るお金をあわせれば借金を返済していても暮らしは幾分か楽になった。
 これまで支払いが滞っていた使用人たちにも充分な給金を支払うことができるようになったし、後回しにしていた屋敷の修繕や妹の社交界デビューに向けてのドレスや装身具にもお金を回せるようになった。

 ここまでお金に余裕が出てきたのはカヌレをヒットさせることができたからだった。


 カヌレは見た目が地味で華やかさに欠けるので首都では嫌煙されていたし、たいていのパティスリーでは売られてはいなかった。
 認知度が低いことは分かりきっていたから、手始めにお菓子を買ってくださったお客様に一口サイズの可愛いカヌレをおまけだといってプレゼントした。
 その際、一口サイズなので食事のマナーを気にする必要もない点や、マカロンと同じように数種類のフレーバーを用意してあることを説明すると、お客様は興味を示してくれた。