「力がある程度戻ったら絶対に真実を告げます。そしてそれまでに僕はネルの姿とアルの姿の両方でシュゼット令嬢の心を射止めてみせます」

 ネルは挑むように眉を上げる。
 正直なところ、ネルに対してシュゼットは犬や猫を可愛がるような好意しか抱いていない。

 アルはネルの姿でこれまで包み隠さず好意を示してきた。しかしアルの姿の時と比較してシュゼットの反応は薄い。真摯に耳を傾けてくれているが小さな男の子が可愛いことをしていると思われて終わっているに過ぎない。

 肝心のアルの姿だと少しは意識してもらえているような気もするが、彼女の口から『大切なお客様』と言われてしまったので距離を縮めるまでに時間は掛かりそうだ。

 ――シュゼット令嬢にすべてを打ち明けて本心を確かめたい。けど、体感的に良い返事がもらえそうな気がしないし、ネルがアルだと知ったらどんな反応をするか……王子殿下の想像する通りになりそうで怖い。

 そして不安の種はもう一つある。
 それはエードリヒだ。エードリヒは幼馴染みで歳も近いし、彼の様子からしてシュゼットに好意があるのは明らかだ。
 少年のネルでは大人なエードリヒに勝ち目はないし、アルの姿でも心の距離は縮まっていない。どちらの姿で言い寄ったところで勝ち目はない。

 このままだと、エードリヒにシュゼットを取られてしまうんじゃないか。
 啖呵を切っておいて不安と焦りが心を満たしていく。
 ネルが暗い表情で物思いに耽っていると小走りでシュゼットがイートインスペースにやって来た。