「少年に外傷はありません。声を掛けたところ意識もあります。なんでも空腹で動くことができないようで」
「まあっ、それは大変だわ!」
 私はコートを持ったまま御者の手も借りずに馬車から降りると少年のもとへと小走りで駆け寄った。
「ねえしっかりして。お腹が空いているの?」

 声を掛けると少年がおもむろに顔を上げて私の方を見てきた。


 十二歳くらいだろうか。ふわふわとした白金色の髪に紺青色の瞳を持つ少年は、幼いながらも恐ろしいほどに顔が整っていた。細い鼻梁と薄い唇は愛らしく、一見少女と見間違えるような可愛らしさも持っている。美丈夫と言われているフィリップ様なんて非じゃないくらい、その少年はとても美しかった。

 見とれてしまっていた私はハッと我に返ると、少年の目線と同じになるように膝を曲げてしゃがみ込む。
「今はこれしかないんだけど。良かったら食べて。私が作ったクッキーよ」
 私はコートのポケットから小さな包みを取り出した。真っ赤なリボンの結び目を解くと小鳥の形をしたクッキーとチェッカー柄のクッキーが五枚ずつ入っている。

 少年は余程お腹が空いていたらしく、クッキーを一目見るや夢中で食べ始めた。