異変をラナに知らせようと大声で叫ぼうとすると、相手の手に口を塞がれてしまう。
 手足を動かして抵抗するものの、男性の力には敵わない。あまりにも突然のことだったので、私はパニックに陥っていた。

「そう警戒するなシュゼット。強盗だったら名前を知らないし、話しかける前に刃を背中に突き立て金を出せと脅している」
 相手の主張は一理ある。そしてその声の主が誰なのか見当がついた私はすぐに冷静さを取り戻した。
 大人しくなったことを確認した相手は、私の口からそっと手を離す。

 すぐに後ろを振り返ると、頭にすっぽりとフードを被り、目立たないよう灰色の外套を纏った人物が立っていた。
 男性がゆっくりとフードを取り払うと予想通りの顔が現れた。

 さらりとした赤髪は襟足部分が長く、それ以外は短く整えられている。肌は白く鼻筋はスッと伸びていて、唇は薄い。つり目がちの瞳は琥珀色をしていて、芯の強そうな光が宿っている。全体的に精悍な顔立ちだが、微笑みを絶やさないことで幾分か柔らかな印象を与えていた。
 目の前の人物は私の知っている人だった。

「エードリヒ様!!」
 私は慌ててカーテシーをする。