バターと砂糖で煮詰めたリンゴはしんなりとした中に確かな甘みがあり、その下のクレームダマンドとよく合っている。クッキー生地のタルトは舌の上でほろほろとほどけ、隠し味に入れていたクルミの食感がまた楽しい。
 ――うん。やっぱりアップルタルトはこのレシピが一番好き。
 いつも通りの仕上がりに満足していると、アル様からの視線を感じた。

「どうしました?」
 真剣な眼差しを受けて私は小首を傾げる。
 すると不意にアル様の手が伸びてきて私の頬に触れた。白くて細長い指からは温もりがじんわりと伝わってくる。
「ア、アル様?」
 私の心臓は一度大きく跳ねると、急速に脈打ち始めた。
 だって、アル様の熱を孕む双眸が私を捉えて離さないから。じっと見つめられてドキドキしない方がおかしい。
 ――ううっ、このままだと心臓が持ちそうもないわ。何か別のことを考えないと……!
 私が必死に別のこと――カヌレのトッピングは何にしようかとか、アップルタルトもいいけどファーブルトンも美味しいわよねとか、どうでもいいことばかり――に意識を集中させていると不意に声を掛けられる。