格好のつかない黒羽くんは今日もにぶい。

「少し体調悪いくらいじゃ休めなくなるくらい,好き。笑っていて欲しい,落ち込まないで欲しい。ずっと見ていたい。会いたい。だけど……笑わせるなら,絶対自分がいい。近くにいるのは,その人の好きな人なんかじゃなくて,私がいい。絶対に,譲れない」



私は今までの悔しさやもどかしさを思いだし,嗚咽を交えて涙を落とす。

こんな激情を他人の前で露にするのは初めてで,私は恥ずかしさに涙を拭った。

こんな気持ち,全部月くんが運んできたんだよ。

ねぇ,分かってる?

ううん,全然分かってない。

いい加減,分かってよ。

少しも誤解なく,全部。

私の気持ち全部,とどいて。

すっと頬になにかが触れた。



「使って,奥西さん。泣かないで」



優しい感触は,ふんわりしたハンカチのものだった。

前は持っていなかったのに,また私の前で持っている。

この状況でまだこんなことをしてくる月くんは,やっぱり誰よりも鈍い。