「ねぇ! こんなとこまで来たら,授業遅れる! 月くん,ねぇ戻ろってば,離して!!」



私は荒れる息で,慣れない大声をあげた。

引かれる腕は痛くないけど,月くんの走るスピードは私のそれと違う。



「1回くらい,大丈夫だよ」



月くんは小さく控えめな笑みを浮かべた。



「本当は,奥西さん慰めて,授業戻って,後から話聞くのが1番正しいって分かってる。でも……いつも穏やかにしてる奥西さんが悲しそうなのは,そんなに待ってられないよ」



こんなことしたら怒られる。

それはきっと月くんも分かってるんだろう。

少し可愛く,窺うように月くんは私を見た。

あってるよ,急なこんなことして,私は怒らなくちゃいけない。

だってそれが,私だから。

でも……私を暴いて,驚きの後に見せた強い光が私の心を再び揺らす。

いつも鈍くて,いつもずれてて,格好なんて付かない残念な人なのに。

なんで私の前じゃ,いつもそんなに格好いいの。