「雪乃さん……大丈夫?」




朝から少し,騒がしい。

瞳を揺らし,ついにひとつ溢してしまった雪乃さんに,案の定黙っていられない月くんが声をかけていた。



「ごめんね,月くん。ううん,何でもないの。昨日,本当は友達と遊ぶ予定があったんだけど……間違えてバイト入れて,ドタキャンしちゃって……」



ほんとは相手が怒ってるかもしれない。

確認したいけど,メッセじゃ本心が分からない。

逆に怒らせるかもしれないし,かといって会いに行くのも怖い。

雪乃さんは片手を強く押し当てて,可哀想に,嗚咽を必死に殺していた。

きっと,普段はそんなミスしない子なんだろうから。

初めての失敗に,嫌な結末が来るのを過剰に怖がっているようだった。



「雪乃さん……ごめんね,俺,女の子同士の事なら力にはなれないけど……」



眉を垂らした月くんが,ポケットにすっと手を伸ばす。