【完結】鍵をかけた君との恋

「あ、そうだ」

 ふと歩みを止めた陸は、ポケットから小さな箱を取り出した。

「何、その箱」
「鍵貸して」
「鍵?」
「渡しただろ?校庭で」

 その言葉で、ああとすぐに思い出す、ふたりの恋をしまった箱を。

「ええっと、はいはい」

 鍵を取り出す仕草をし、形なきそれを陸に預ければ、彼も受け取る仕草に差し込む仕草。

「いいか、開けるよ」

 ゆっくりと鍵が回された。それと同時に鼓動は速まる。

「じゃじゃん!」

 蓋が開いたその瞬間、小さなイルカが目に入る。

「ピ、ピンバッジ……?」
「さっき乃亜がトイレ行ってる時に買った」
「え、でも、その箱はどうしたの?」
「これは家にあったやつ。恋箱(こいばこ)のギャグでもしようと思って、ポケットに忍ばせておいた」
「恋箱って……」

 ふたりの恋をしまった箱は、二度と開けられないと思っていた。鍵を大事にとっておいても意味などないと。だから今、私が陸の隣にいて、ふたりで一緒に恋の箱を開けられたのは奇跡なんだ。


「ええ!これで泣くのかよ!」

 陸が驚くのも無理はない。自分でもどうして涙が出たのかわからず戸惑った。

「なんでなんで、なんで泣いてんのっ」

 俯く私の顔を覗いて陸は言う。

「べつにこれ高い指輪じゃないぞ、ただのバッジだぞ。たったの四百五十円っ」
「そういうことじゃないのぉ……」
「じゃあなんだよ。相変わらず、乃亜はよく泣くなあ」

 よしよしと頭を撫でられて、嬉しくなる。

「私、しつこいからね……?」

 足元の砂浜にできた水玉模様は、靴で掬った砂で隠すけど、何度やっても何度もできた。

「陸から、絶対絶対離れないよ?ずっとずっと側にいちゃうんだからっ」

 一生陸の側にいたい。永遠にだって愛していたい。

「乃亜」

 優しく呼ばれた名前と共に、額に温かなキスが降る。泣き顔のままに頭を上げれば、愛しい人はこう言った。

「俺の方が相当しつこいって、知ってるくせに」