悠久の絃

さて、どうやって話そうか。


「いとちゃん、本を読むのが好きなの?」

いとちゃんは頷いた。


「どうして好きなの?」


絃「本を読んでる間は嫌なことを忘れられる。物語の中に入り込んで、その事で頭の中が満たされるから。」


「じゃあ、今も嫌なことを考えてるわけだ。何が嫌?」


いとちゃんは少し悩んで話し始めた。



絃「今日の治療が怖い。椎名先生と瑛杜先生がいなくなった後、病室で一人なのが嫌だった。

だから廊下を歩いてたけど、みんなお父さんとかお母さんと一緒に居て、お父さんにも、お母さんにも、もう会えないから、それも、嫌だった。」



なるほどね。やっぱり、いとちゃんも治療怖いよね。それを忘れようとするなんて、多分、すごく辛いんだろうな。凑に話してなるべく早く重荷を取ってあげたい。


「そうだったんだね。いとちゃん、今すごく辛いよね。でも、治療は今日しないといけないんだ。怖いよね。でもね、大丈夫。僕も一緒にいるから。
とりあえず、病室に戻ろう。みんな心配してる。」


そう言って、僕はプリントをファイルにしまってリュックに入れた。

いとちゃんの手を引き、エレベーターで4階に行く。