悠久の絃

11時。夏は夜勤明けでもう帰ったみたいだから、僕一人でいとちゃんの病室に行くことにした。


「入るよ〜」


いとちゃんは読んでいた本からこちらに目を移した。
ベッドの横の椅子に座り、少し話すことにした。


「その本、面白い?」


絃「うん。面白い。主人公がすごくかっこいい。でも、主人公を支える仲間もかっこいい。」


「それなら良かった。それ、僕の1番おすすめの本。
いとちゃんさ、今、考えてることがあるんでしょ?その本の主人公みたいに、悩んでることとか、考えてること教えてよ。僕達はいとちゃんを支える仲間だからさ。」



聞き出すにはちょっと強引かな。
でもその本、ちょうど僕がいとちゃん位の時に買ったやつなんだよな。気に入ってくれて良かった。


絃「あのね、昨日の夜、夢を見たの。」


「うん。なんの夢を見たの?」


絃「お父さんとお母さんがいたの。私がまだ小さくて、一緒に暮らしてたの。

お父さんのお仕事がお休みで、お家に大人の人がたくさん来て、お酒を飲みながら楽しそうに話してたの。
でも、その大人の人たちの中で、お酒を飲まないでずっと私と遊んでくれたり話したりしてくれるお兄ちゃんが2、3人いたの。

お父さんとお母さんにはもう会えないけど、お兄ちゃん達には会えるかなって思ってたの。
多分、このことは本当にあったと思うの。

この病院に来て、何も考えない時間が増えて思い出したんだと思うの。
でも、そのお兄ちゃん達が誰なのかが分からないの。

瀬堂先生はこの病院の誰かかもねって言ってて、そんな気もするしそうじゃない気もするの。」