「…理緒、本当に、あのときは…」
「今さら謝らないで!」

理緒がまた亮二に、本を投げつけてきた。

「アンタなんか偽善者よ!
助けるふりして、私を利用して自慢して
私のこと人形みたいに扱って…!
全部分かってるんだから!
だからアンタの社宅を出てやったのよ!」

亮二は、なんと説明していいか、分からなかった。

そうだ、自分は理緒を、どこかで…でも…

そうは思うが今の理緒に、何を言っても無駄そうだ。

「一緒に帰ろう、一人は良くない」

「うるさい!!!」

理緒が包丁を持ち出した。

「おい、なにしてるんだ…」

「出ていかないなら
この包丁で自分を刺す」

理緒が首に包丁を当てた。

「おい!やめろ!」

「早く出て行って」

「頼むから…」

「あと十秒…」

「理緒、頼むから…」


「10、9、8、7、6…」

理緒がカウントダウンを始めた。

「理緒、頼む…」

「54321」


「分かった!出ていく!
出ていくから包丁を置いてくれ!」

理緒は包丁を床に投げ捨てた。

「今度来たら、この包丁で、首を刺して死んでやる!私は今さら、死なんて恐れてない!
亮二さんなら、知ってるでしょ?」

「あぁ…分かってる…」

亮二は力なく、マンションのドアを開け、帰って行った。

理緒は部屋に一人きりになった。

亮二がもってきた、たこ焼きは、グチャグチャになって床を汚していた。

それを汚いモノのようにひろい、ゴミ箱へボトンと投げ入れる。

「…私は大丈夫、私は大丈夫…」

そういって、床に座り込み
両腕で理緒は自分を包んだ。

「私は大丈夫、私は大丈夫…」

まるで祈るかのように、理緒は泣きながら
一晩中、その言葉を、言い続けた。