ワインとチーズとバレエと教授



「あなたは、大丈夫です、
元気ですと言いますが
職場やバレエ教室の皆さんに
あなたが本当に大丈夫かアンケートでも取って
お聞きになってみてはいかがです?
99票は私に入るでしょう、残りの1票はあなただけー」

理緒がムッとした顔をした。

いいぞ。

「おや、ずいぶん
不満そうな顔ですね、納得してないと
顔に書いてありますよ」

「…別に、そんなこと…」

「そうやって皆に
ムキになって大丈夫と
言ってるのですか?」

「ムキになってません」

「そうですか?
ずいぶんムキになってるように
思いますが」

「ムキになってません!」

理緒が怒鳴った。

「おやおや、ずいぶん、
お怒りのようですね、

でも、あなたが、私の助言を聞いたことは
一度も無かったと思いますが。
まだ、私とムキになってやり続けるつもりですか」

「だから、ムキになってないってば!」

いいぞ

「へー、そうですか、
中足疲労骨折をして、
今度はけんしょう炎になって
今日は異型狭心症で運ばれてますよ?

私の助言を聞いておけば
こんな事は起こらなかったと
思いますけどねぇ」

「だから、検討しました」

「検討した結果がコレですか
あなた、何を検討したんです?」

「ですから…!私なりに
いろいろ検討したんです!」

「あなたなりに、いろいろ検討した結果が
コレですか?
ずいぶん結果が伴わない事を
"いろいろ"、"時間をかけて"
検討したのですね」

「…なっ…」

「それでもムキになってないと?」

理緒はイライラしているようだ。

「私はあなたに沢山の助言をしましたね、
でも、あなたは、検討すると言って
何も検討なさらなかったのですね」

「だから…!」

「結果が出ないことを
時間をかけて検討したのでしょ?
で、結果がコレですか?」

理緒が初めて、ふてくされた顔をしている。

「次に私から別の提案しましょう
ちょっとは素直に人の意見を聞いたらどうです?
す、な、お、に、」

「…なっ…」

「どうです?しばらくバレエとピアノと仕事を
本気で休んでみたらいかがです?」

理緒が黙っている。

「どうなんです、休むのですか
まだやるのですか?」

「…分かりました」

「え?何ですって?
聞こえませんでした」

「だから、分かりました!」

「分かってくださり大変けっこう!
では、一ヶ月後の、この日はどうです?」

「…はい」

不満そうな理緒は、誠一郎から会計時に必要な
用紙を淡々と渡され、それを、グイッとひったくった。

そして診察室を出ようとしたとき
誠一郎がパソコンを打ちながら
理緒の顔も見ず

「…今度こそ、一ヶ月間、
休んでくださいね」

とポソッと念を押すと、理緒は

「分かってます!」

と言い返してきた。

「ええ、ええ、ぜひそうしてください」

「あと、私、ムキになってません!」

「あぁ、そうでしたか、それは、それは、
大変、失礼致しました」

理緒がプイッと顔を横に向けて
診察室を後にした。

誠一郎は、クスクス笑っていた。