誠一郎は、理緒が整形外科から戻り、
精神科の受付を済ませたのを確認し、
待合室に出向いた。

「津川さん」

と、理緒を呼んだ。

理緒の表情までは分からないが
この時も誠一郎は、一切、振り向かず、
さっさと診察室に入って
椅子に座って理緒を待った。

「失礼致します」

礼儀正しく、理緒が診察室に入ってきた。
両腕は、シップと包帯でグルグル巻にされていた。

「お疲れ様でした。
整形外科では
何と言われましたか?」

理緒は無言だった。

「整形の先生は
何とおっしゃっていましたか?」

「私は大丈夫です」

「あなたの感想は聞いていません。
整形の先生は、何とおっしゃっていましか?」

「ピアノのやり過ぎで、
けんしょうえん炎になっていると
おっしゃってました」

「そうですか、
それで、整形の先生には
どうするように言われましたか?」

「私、大丈夫です、頑張れます」

「あなたの感想は聞いていません」

誠一郎は今回も冷たく言った。

「整形の先生は
何とおっしゃいましたか?」

「少しピアノを、お休みするようにと…」

誠一郎は少し、無言の時間を作ってみた。

しかし、理緒からの反応はなかった。