ワインとチーズとバレエと教授



「どうぞ」

誠一郎は理緒にパイプ椅子に
座るよう促した。

理緒は姿勢良く静かに座る。

「お疲れ様でした。整形外科の先生は
何と仰っていましたか?」

誠一郎も淡々と聞いた。

「私は大丈夫です」

「あなたの感想を聞いているのではありません。
整形外科の先生は何と言っていましたか?」
誠一郎は、冷たく言った。

「……中足疲労骨折と…」理緒がうつむいた。

「バレエはどうするように
言われましたか?」

「私は行けます」

「あなたの感想は聞いていません
整形の先生は、どうするよう言いましたか?」

「…一ヶ月半は
お休みするように
言われました…」

「それが妥当でしょうね」

「でも私は行きたいです」

「あなた疲労骨折してるんですよ?」

「痛くありません」

「あなたはそう思っていても
骨折してるんです、休んでください」

「でも、休んだら…」

「休んだら…?」

その次の言葉を
誠一郎は聞きたかった。

「いえ、ただ、
筋肉が落ちると…」

「仕方ありません、また治ったら
練習すればいいことです」

「でも…!」 

「でも?」

「…いえ…別に…」

肝心なところは言わないか…

「やりたいのは分かります、でも、私は前回、あなたにバレエもピアノも、緩めてみたらどうですか?と助言しましたよね?」

「………」

理緒は無言になった。

「あなたは検討しますと
言いましたよね?」

「………」

「検討しましたか?」

「……はい」

「それが、今のように
ハードに続けることが
回答になりましたか?」

「……出来ると思ったので…」

「でも、ケガをしましたよね?」

誠一郎は、わざと
とことん理緒を追いつめてみた。

すると理緒は、 
うつむいてた顔をスッと上げて 

「先生の貴重なご助言を受け入れず、
このような結果となり大変痛み入ります。
申し訳ございません」

理緒は会社の商談のように、心にも思っていない
形式張った謝罪をした。

そう来るだろうと思ったー

「では、一ヶ月半休んでください」

「……はい」

「では次の外来は、一ヶ月後、
この日はどうですか?」

「はい、大丈夫です」

「ではお大事に」

淡々とした誠一郎の言葉に
理緒は静かに頭を下げて

「ありがとうございました」

と、形式上のお礼を述べた。

そして、診察室から出ようとしたとき

「あぁ、それから、ハイヒールも
しばらく履かないでくだいね」

誠一郎は理緒の顔など見ずに
パソコンを打ちながら付け加えた。

「え、でも、ハイヒールを履いて出勤くらい…
ハイヒールは内ももの筋肉もつけます」

そうか、ハイヒールを履いていたのは
おしゃれのためでなく、あくまで筋肉のためかー

「ハイヒールは、
疲労骨折に負担をかけます。完治も遅れますよ。
今回、手術をなさらない選択を
おとりになったようですが、手術した方が中足疲労骨折の再発リスクが、三分の一になることは
聞いてますよね?
さらにハイヒールを履いたら
バレエの復帰も遅れると思いますが」

ツラっとした表情で
誠一郎は伝えた。

「はい、ご助言ありがとうございます」


もう一度、誠一郎に
頭を下げて足を引きずりながら、理緒は診察室を後にした。