ワインとチーズとバレエと教授


「どうぞ」

誠一郎は淡々と、理緒がパイプ椅子座るよう促した。

今日の理緒は、首元にリボン結びをするタイプの
白いブラウスに、ピンクのエレガントなスカートで、ピンクのハイヒールを履いていた。

相変わらずキレイに整った黒髪で
どこかのご令嬢のようだったが、足元がおぼつかない感じだ。どうやら、足をかばって歩いているようだ。

「一ヶ月間、どうでしたか?」

「はい、仕事とバレエとピアノを
頑張っていました」

そう理緒は笑顔で答えた。

「…ケガはしていませんか?」

「…え?はい?」

理緒は質問の意図が分からないかのように、少し驚きながら答えた。

「足が痛そうですが」

「あぁ…そうかも知れません」

そうかも知れません…?

「失礼ですがハイヒールを脱いで頂けます?」

「はい」

そう言うと、理緒は、両足のハイヒールを脱いでみせた。

「右足が腫れていますが…」

「あぁ、それはトゥシューズを履いて
ポアントのとき、足の甲を前に出しているからで…」

「…ポアント…?」

「ああ、えっと、ルルベで立つ…、あ、いえ、爪先立ちを想像して頂ければ…トゥシューズはそのようにして履きます」

「今立てますか」

「はい」

理緒はスッと立った。

「爪先立ちで歩いてみてください」

「……」

理緒は、あきらかに、嫌そうな顔をした。

「爪先立ち、できますか?」

そう言われて理緒が爪先立ちで歩いてみせた。

どう見ても、足をかばいながら歩いている。
それでハイヒールを履いてきたのか?

「痛くないですか?」

「痛くないです」

痛くない…?
本当に…?

「結構です、靴を履いてください」

理緒がハイヒールを履き直した。

「整形に行ってください、今、内線で診て貰えるか確認します」

「必要ありません」

淡々と理緒が言った。

「右足がかなり腫れています、爪先立ちも歩けていません」

「歩けてます」

「いえ、かばいながら歩いてます」

「大丈夫です」

「大丈夫か整形の先生に診てもらいましょう」

「ですから、大丈夫…」

誠一郎は、有無を言わさず
内線で整形に電話をした。