ワインとチーズとバレエと教授



いつも通り法律事務所に出勤した。
先生も秘書も他の事務員も
まだ出勤していない。

理緒はすぐテーブルと窓を拭き
掃除機を取り出し床を掃除した。

シュレッダーのゴミを廃棄し
しなびてきた、花をゴミ箱に入れ
用意された花で生け直した。

法律事務所の花は基本和花だー

花を生け終わったとき、
弁護士の高橋先生が出勤してきた。

「おはようございます」

理緒は高橋先生に頭を下げた。

「おはようございます。津川さんは、毎朝早いですね、助かってます」

弁護士の高橋は理緒を雇って
心底、良かったと思っている。

他の事務員より、気は効くし
仕事の覚えも早いし、謙虚だし、それに美しいし。

依頼人にコーヒーを出す姿勢は
厳格な法律事務所に似合うほど、洗練されていた。

私生活は全く分からないが、高橋は、理緒を良家のお嬢様だろうと思っていた。

「津川さん、今日法務局行ける?」

「はい」

「こないだの吉田夫婦の離婚で、
土地の登記簿移転を行うそうだ、それで…」

「承知いたしました、登記簿移転の書類を作成し
午前中までに、法務局に提出します」

「いや、本当に助かるね」

高橋は理緒の素早い理解力と手早さに感謝した。
他の事務員や秘書も出勤してきた頃、理緒が登記簿移転の書類を作成していた。

理緒は他の事務員にも「おはようございます」と
笑顔で声をかけた。

「本当に理緒ちゃんったら働き者ね」

そう言ったのは50代女性の事務員、三吉さんだ。
いつも、理緒にお菓子や紅茶を差し入れしてくれる優しい人だ。