ワインとチーズとバレエと教授

「感動しなくなったり、心が動かなくなったのは
いつ頃からですか?」

「一年前です」

的確に日時を覚えている。何かあったな。

「一年前、何かありましたか?」

誠一郎は確信に迫ろうとした。

「…疲れて…」

「疲れて?」

理緒が言葉を選んでいる。

「バレエを続けるうちに、疲労感が増して、バレエを続けるか迷っていました。でも、続けると決心しました」

何かを隠しているー

「疲労感は、どの程度でしたか?」

「翌日、寝たきりになりました」

よほど疲れていたのか。

「翌日、寝たきりになるくらい疲れているのに、バレエを続ける決心をしたのですか?」

「はい」

「なぜ休まなかったのです?」

その質問に、理緒の誠一郎の見る目つきが一瞬、きつくなった気がした。

「それでもバレエが好きだからです」

理緒は微笑んで答えた。今、理緒が自分を鋭く睨んだように見えたが、気のせいだったのだろうか…。

「バレエのどんなところが好きですか?」

「前回お話したとおりです」

試しているなー


誠一郎は、前回どれくらい、理緒との会話を覚えているか、試されていると感じた。