ワインとチーズとバレエと教授



理緒はワンピースを整え、美しい姿勢で着席した。
両足はピタリとくっつけ、斜めに流した。
相変わらず隙がない。

「一ヶ月間、どうでしたか?」

誠一郎は淡々と聞いた。

「はい、バレエを鑑賞し、サラ・ブライトマンの
コンサートに行き、翌日はシューマンのオケをサントリーホールで聴きました」

ずいぶん高尚な生活だ。
誰と行ったのだろう?
亮二か?
一人で行ったのか?
友達と?

そう思ったが誠一郎はあえて、その質問は避けた。

「そうでしたか、バレエやコンサートは
どうでしたか?」

理緒は一瞬、
ほんの一瞬、
目が泳いだ。

誠一郎はそれを見逃さなかった。


「…そうですね
どれも素晴らしかったです…」

「素晴らしかったですか。
その他、感じたことはありますか?」

誠一郎は、
あえて突っ込んだ。

「…素晴らしかったですが
…感動はしませんでした」

きたな。

「心が動かない感じでしょうか?」

「はい」

「飽きた感じですか?」

「いいえ」

「最近、感動したり
心が動くことはありますか?」

「いいえ、でも、
バレエとピアノをしている最中は
感動というより、没頭して好きです」

きたきた。

誠一郎は、このヒントで、隙のない理緒から
どれだけ聞き出せるか試そうと思った。