シャングリ・ラに帰宅した時、
ちょうど大粒の雨が降ってきた。
「せっかくの夜景が台無しね」
理緒が、ぼんやり
窓を見つめて呟いた。
それでも高級ホテルのロビーを
堂々と歩いても
何の違和感もない理緒は、
やはり前とは大違いだった。
「先にシャワーを浴びるか?」
「お先にどうぞ」
理緒の気のない
返事が返ってきた。
亮二は、理緒の指示に従って
ササッとシャワーを浴びて
ざざっとドライヤーで
髪を乾かした。
あまりに、
広々としたバスルームは
なんだか、気が休まらない。
そして、重厚な大理石の
バスルームは、
ツルツル滑りそうで
いつも苦手だ。
でも、シャングリ・ラを
予約したのは理緒の
喜ぶ顔が見たかったのと
理緒には、この空間が似合うー
そう思ったからだ。
バスルームのドアを開けると
理緒がコンビニで買った
赤ワインを飲みながら
雨粒でにじんだ夜景を見ていた。
隣には、
コンビニチーズも置いてある。
「ルームサービスで
頼んでもいいんだそ?」
「いえ、コンビニで十分です」
そうキッパリ言うと、
理緒は優雅に、
コンビニチーズを
ひとつまみ口に運び、
コンビニの
赤ワインで流し込む。
亮二は、今、理緒が
何かを食べているだけで
いいとさえ思っていたー
「お風呂どうぞ、
バスルームがキレイだよ」
亮二か勧めると
「うん」
と、気のない返事で理緒は答え
バスルームに消えていった。
翌日はサラブライトマンの
来日コンサートに出かけた。
その日の理緒は
身体のラインが比較的出る
グリーンのスーツワンピースを
着用して、胸元には
羽根のブローチをつけた。
もし、ハットを被ったら
キャサリン妃が
公務にでも行くような
雰囲気だった。
サラは相変わらずの美声だった。
定番の「オペラ座の怪人」も歌ったが
理緒が好んでいたのは
「スカボロフェア」だ。
理緒は、音楽だけでなく
スカボロフェアの
哲学的な歌詞を好んでいた。
最後のアンコールの
「 Time to Say Goodbye 」
も聞き終わり
理緒は姿勢良く拍手を送った。
そして、スタンディングオーベーション。
翌日のサントリーホールで行われた
東京シテイハーモニー管弦楽団の
シューマンのコンサートも
理緒は上品な
グレーの光沢がある
Aラインドレスを着用して
ホテルを出た。
その日は、シューマンの
交響曲第2番 ハ長調と
ブラームスを聞いた。
理緒は、微笑んでいたが
スタンディングオベーションはせず
座席に座って拍手をしていた。
何かが気に入らなかったようだ。

