「ありがとうございます、素敵な場所を予約してくれて…」

理緒はほほを赤らめた。誠一郎は学会が終わった後、その時間を埋めるかのように、理緒に対して積極的だった。

会話も二人の時間も、二人の交際はとても順調だった。理緒は、誠一郎から

「大学病院を辞めようと思うんだけど…」

と言われた時とき

「はい、 そうしたら良いかと思います」

と、笑顔で答えた。

それに誠一郎は驚いた顔をしたが、理緒はどことなくホッとしている印象だった。

誠一郎が大学病院にいる限り、父親の影を追うのではないか?そしてまた苦しむのではないか?そう思っていたからだろう。

「今日のあなたは一段と綺麗ですよ」

誠一郎はそんな言葉をよく言うようになった。

今日の理緒は白いAラインのドレスワンピースを着ていた。

12月2日は、もう冬だ。なんとなく雪をイメージした服装だった。

袖と、スカートの裾に、レースをあしらった白いAラインのドレスワンピースは、理緒によく似合っていた。

「やっぱり、ここからの眺めは素敵ですね、誠一郎さんの勤める大学病院が見えます」

「そうですね、その大学病院も、あと3ヶ月で退職ですが…」

誠一郎はひと皿目の、サーモンとチーズにキャビアを添えた、ホタテとホワイトアスパラを使った白トリュフのソースの前菜を、ナイフとフォークで口に運んだ。

「美味しいですね」

理緒が微笑みなが言う。

「あなたとの食事なら、なんでも美味しいですよ」

誠一郎は歯の浮くようなセリフをスラスラ言う。
でもそれが理緒には本音に思えた。
自分は浮かれているだけかもしれないけが、誠一郎が嘘をつくほど器用だとも思えない。

「あなたが大学病院の退職を快く承諾してくれて、ほっとしてます」

二皿目の、カブとオリーブのスープを口に運びながら誠一郎は言った。

「誠一郎さんの人生ですから…」

「いえ、これからは2人の人生ですよ」

理緒はまた、ほほを赤らめた。本当に分かりやすい子だ。

スープが終わった頃、2杯目のシャンパンをソムリエが注いだ。