そう誠一郎が声をかけた先には、ベッドに横たわった老人が、こちらを振り返った。
「父さん、元気?」
「お前か、誠一郎、勉強はちゃんとやってるか?部活もサボってないか?」
「あぁ、やってるよ」
誠一郎を学生のように思っているらしい。
「いや…今のままじゃダメだ!こんなんじゃ教授になれんぞ!」
かすれた声で、誠一郎の父親は叫んだ。
今度は成人している誠一郎になっている。
教授に向かって元教授が"教授になれない"と言う、この滑稽な状況が、医局員を沈黙させた。
「あぁ、野沢君、君か!よく来たね、学会はどうかな?」
野沢のことは覚えているらしく
「先生、ご無沙汰しております、学会の準備は十分できてます」
「そうかそうか、本当に君が優秀で助かるよ」
彰一郎は微笑んだ。
「父さん、紹介したい女性がいるんだ、津川理緒さんだよ」理緒が頭を下げた。
「そうかそうか!これはめでたい!かわいいお嬢さんじゃないか!本当に良かった!M病院の高野先生に頼んだ見合いが決まったんだな!」
誠一郎は、誰かとお見合いしたらしい。
「初めまして津川理緒と申します」
「あぁ、あぁ、誠一郎を頼むよ、ミカさん」
「はい」
理緒はそのまま答えた。
「誠一郎、お前はきちっとやってるんだろうな!論文はどうした?えぇ!」
急に父親の態度が変わった。
「うまくいってるよ」
「どこがうまくいってるだ!こないだお前の論文を見たがあれは最低だ!お前は何を研究してるんだ!
えぇ!?」
誠一郎はなれてる様子で
「ごめん、今度はうまく書くよ」
と、サラッと受け流した。
「今度、今度と言ってお前は…あぁ、母さんが死んでから、すっかりお前はダメになった!」
「母さんは元気にしてるよ」
「なに言ってるんだ!母さんはとっくに死んだ!母さんがいなくなって全部、全部、ダメになった…あぁ、母さん…」
「父さん、やめてくれよ」
医局員も理緒も静まり返った。
「母さんが死んでから…あぁ、母さん…なんで死んだんだ…なんで…」
「父さん、いい加減にしろよ!」
誠一郎はつい感情的になった。
「お前こそだ!母さんがいなくなって、お前は…全部、全部、…ダメになって…」
「いい加減にしろって!」
誠一郎は怒鳴った。
そのとき、父親の枕元からある新聞の切り抜きが出てきた。
誠一郎は、それに目をやった。
医局員は全員黙った。理緒も黙った。
「父さん…こんな新聞記事 どうしたの?」
「あー、それか?それは…分からん、それはよこせ!」
誠一郎はその新聞記事を元の場所に戻そうとしたとき手が止まったー
2020年2月19日、元国立大学精神科教授の藤崎彰一郎さん(67)の妻、百合子さん(67)が自殺ー…
第一発見者は、国立大学精神科現教授で、息子である藤崎誠一郎さん(42)が母親が首をくくって死亡しているところを発見、警察に通報し死亡が確認された。自殺の経緯は…
「…え…?」
誠一郎は頭が真っ白になった。
「母さんが死んでしまって…母さんが死んでしまって…お前は、全部ダメになって…」
誠一郎は言葉が出てこなかった。
父さんがおかしいのか?俺がおかしいのか?
でも新聞にはそう書いてある。
母さんが死んだー?
3年前にー?
首吊り自殺ー?
誠一郎は静かに聞いた
「今、何年だ…?」
野沢助教授が「藤崎先生、2023年です…」
「今年がか…?」
「…はい…」
「今年は2023年なのか?」
「…はい…」
医局員の医師たちも、理緒も誠一郎を見守った。
誠一郎は新聞を持つ手が震えた。
「母さんが…?母さんが…? 」
理緒は誠一郎を見て涙があふれた。
誠一郎は、何が何だか、まだ、分からないでいた
「…でも、留守電に……こないだも……母さんからメッセージが…」
「うるさい!早く新聞を返せ!」
彰一郎は、ぐいっと新聞記事を、ひったくった。
そして誠一郎は、思い出してはいけないものを、思い出そうとしていた。
「父さん、元気?」
「お前か、誠一郎、勉強はちゃんとやってるか?部活もサボってないか?」
「あぁ、やってるよ」
誠一郎を学生のように思っているらしい。
「いや…今のままじゃダメだ!こんなんじゃ教授になれんぞ!」
かすれた声で、誠一郎の父親は叫んだ。
今度は成人している誠一郎になっている。
教授に向かって元教授が"教授になれない"と言う、この滑稽な状況が、医局員を沈黙させた。
「あぁ、野沢君、君か!よく来たね、学会はどうかな?」
野沢のことは覚えているらしく
「先生、ご無沙汰しております、学会の準備は十分できてます」
「そうかそうか、本当に君が優秀で助かるよ」
彰一郎は微笑んだ。
「父さん、紹介したい女性がいるんだ、津川理緒さんだよ」理緒が頭を下げた。
「そうかそうか!これはめでたい!かわいいお嬢さんじゃないか!本当に良かった!M病院の高野先生に頼んだ見合いが決まったんだな!」
誠一郎は、誰かとお見合いしたらしい。
「初めまして津川理緒と申します」
「あぁ、あぁ、誠一郎を頼むよ、ミカさん」
「はい」
理緒はそのまま答えた。
「誠一郎、お前はきちっとやってるんだろうな!論文はどうした?えぇ!」
急に父親の態度が変わった。
「うまくいってるよ」
「どこがうまくいってるだ!こないだお前の論文を見たがあれは最低だ!お前は何を研究してるんだ!
えぇ!?」
誠一郎はなれてる様子で
「ごめん、今度はうまく書くよ」
と、サラッと受け流した。
「今度、今度と言ってお前は…あぁ、母さんが死んでから、すっかりお前はダメになった!」
「母さんは元気にしてるよ」
「なに言ってるんだ!母さんはとっくに死んだ!母さんがいなくなって全部、全部、ダメになった…あぁ、母さん…」
「父さん、やめてくれよ」
医局員も理緒も静まり返った。
「母さんが死んでから…あぁ、母さん…なんで死んだんだ…なんで…」
「父さん、いい加減にしろよ!」
誠一郎はつい感情的になった。
「お前こそだ!母さんがいなくなって、お前は…全部、全部、…ダメになって…」
「いい加減にしろって!」
誠一郎は怒鳴った。
そのとき、父親の枕元からある新聞の切り抜きが出てきた。
誠一郎は、それに目をやった。
医局員は全員黙った。理緒も黙った。
「父さん…こんな新聞記事 どうしたの?」
「あー、それか?それは…分からん、それはよこせ!」
誠一郎はその新聞記事を元の場所に戻そうとしたとき手が止まったー
2020年2月19日、元国立大学精神科教授の藤崎彰一郎さん(67)の妻、百合子さん(67)が自殺ー…
第一発見者は、国立大学精神科現教授で、息子である藤崎誠一郎さん(42)が母親が首をくくって死亡しているところを発見、警察に通報し死亡が確認された。自殺の経緯は…
「…え…?」
誠一郎は頭が真っ白になった。
「母さんが死んでしまって…母さんが死んでしまって…お前は、全部ダメになって…」
誠一郎は言葉が出てこなかった。
父さんがおかしいのか?俺がおかしいのか?
でも新聞にはそう書いてある。
母さんが死んだー?
3年前にー?
首吊り自殺ー?
誠一郎は静かに聞いた
「今、何年だ…?」
野沢助教授が「藤崎先生、2023年です…」
「今年がか…?」
「…はい…」
「今年は2023年なのか?」
「…はい…」
医局員の医師たちも、理緒も誠一郎を見守った。
誠一郎は新聞を持つ手が震えた。
「母さんが…?母さんが…? 」
理緒は誠一郎を見て涙があふれた。
誠一郎は、何が何だか、まだ、分からないでいた
「…でも、留守電に……こないだも……母さんからメッセージが…」
「うるさい!早く新聞を返せ!」
彰一郎は、ぐいっと新聞記事を、ひったくった。
そして誠一郎は、思い出してはいけないものを、思い出そうとしていた。

