理緒はそんな誠一郎の左手を見た。
また引っ掻いたようだ。

「レスタミン、塗りますね」

理緒は、手際よく、誠一郎の左手の引っかき傷に
レスタミンを塗った。

もうずいぶん跡が残っている。

「なんとなく癖で…いつから、掻いたのか…」

理緒は、切なそうな顔をした。
そして包帯を巻いて

「掻かないようにしてくださいね」

と微笑んで、誠一郎の髪をそっと撫でた。

「今は、立場が逆転してますね」

「そういうのも、いいじゃありませんか」

二人の間に、穏やかな時間が流れた。
そして理緒の方から、ずっと誠一郎に聞きたかったことを尋ねた。

「誠一郎さん、お父様は今…?」

「え…?」

誠一郎は驚いた顔をした。

「時々、寝ているとき、うわごとで"お父さん"と…」

誠一郎はうつむいた。

「…そうでしたか…」

「今は、どうされているのですか?」

「…津川先生から私の話は聞きましたか?」

「こないだ、聞きました…」

「…そうですか…」

誠一郎 はしばらく黙り込んだ。そして、一呼吸置いて、

「… 隠していたわけじゃないのですが…」

「分かってます」

「言いにくくて…」

「分かってます」

誠一郎の父親は、この大学病院に入院している。
そしてこの、国立大学精神科の元教授でもあったー