それでも亮二は、どうしようもならない
理緒との溝を埋めようと理緒を誘った。

「…じゃあ、三連休の朝、
亮二さんの病院の社宅に
行いくね」

理緒は、亮二と二人きりのときは
「亮二さん」と呼ぶ。

誰かがいたら「津川先生」と呼び方を
厳格に変えることを最近、亮二は知った。

「…でも、私、
体調が悪くなったら…」

理緒が心配そうに言った。

「その時は、ホテルで休んでいればいい
理緒の好きなアフターヌーンティーも
予約したよ」

理緒は、ホテルで出される
三段トレーの
アフターヌーンティーが好きだった。

シャングリ・ラは
バイオリンの生演奏もついている。
理緒の雰囲気に
ピッタリだと思った。

体調が悪くて、
外に出れなければホテルでゆっくり、
景色でも見ながらアフタヌーンティーでも
悪くない。理緒が喜ぶなら…。

「わさわざありがとう」

「いや、別に、オレも行きたかったから」

「…」


二人の無言が続いた。

「バレエはどう?」

亮二が会話を繋いだ。

「うん、順調よ、頑張ってる」

「あんまり無理するなよ」

「うん、分かってる」

「ピアノはどう?」

「いつラフマニノフが、ひけるようになるのかなぁ…」

「まぁ、焦るな、ゆっくりやればいいさ」

「うん」

その後は、他愛のない会話をして
理緒との電話を切った。