ワインとチーズとバレエと教授

誠一郎は大学で医学部生に講義をしたあと、研究室に戻り医局員の論文をチェックした。

その後は自分も論文を書き、次の学会の準備をしていた。

ただ、どうしても気になるのが亮二だ。

あの時、きつい言葉を亮二に言ってしまった。
同期で長い付き合いでもあり、そして今は、理緒の養父でもある。

そして何より理緒を実家から救い出し、育て上げたのは亮二である。

これから理緒と交際し、結婚を考えるのであれば
亮二とは良好な関係を築いていた方が良いと思ったし、自分自身も、あんな態度をとったことを申し訳なく思ってきた。

昼間、研究室で一人になり、あれこれ考えながら、もう一度、大学のパソコンを開いて亮二にメッセージをした。

「週末、あなたの自宅に伺ってもよろしいですか?」

誠一郎は簡素なメールだが、丁寧な文を送信した。

1時間ほど経った後、亮二から

「いつでもどうぞ」

と返事が来た。

「では今週の土曜日はいかがでしょうか?ご自宅は社宅ですか?」

と誠一郎が聞くと、亮二は病院の社宅の住所を送ってきた。

ここに行けばいいのか…

「ではお昼の11時頃、伺います」

とメールを送り、誠一郎はアポを取った。

実は亮二に聞きたいことがあった。

そして自分も、亮二との関係が不仲だと、理緒に気を遣わせると思った。

理緒とは、少し時間と心に余裕が出るであろう、日曜以降に会う予定にしようと思った。

その間、日々の勤務をこなし
外来をやり、病棟を回り、講義をし、研究論文を書き雑務もこなし、日常生活に忙殺されていた。

そして、週末の土曜、亮二に指定された社宅に、スーツ姿で誠一郎は向かった。

Google マップの地図を見ながら

「おそらく、この辺だろう…」

と見当をつけていたが、思ったより簡単に見つけられた。

誠一郎は深呼吸したあと、インターホンを鳴らすと
亮二がすぐに出てきた。

「よう」

「あぁ…」

そんな会話が、インターホン越しで始まった。