誠一郎は、少し拍子抜けした。

理緒があまりにも「普通」だったからだ。
でも、誠一郎は理緒に対して気を許すことはなかった。精神科医としての「勘」がうずく。

元気です、
大丈夫です、
乗り越えました、
幸せです、
バレエが好きです、
ラフマニノフがひきたいー


「全部、嘘だー」

誠一郎は、誰もいないパイプ椅子に向かってつぶやいた。