「え…これは…一人で作ったのですか?」
どう見ても、これは懐石料理で、どこかの料亭が
そのまま家に来たようだった。
「あなた一人で何時間、かかったんです…?」
「前日から家で作り置きをしておきました。
特に、だし汁は時間がかかりますし、器もこだわりたかったのでウチから持ってきました」
そしてティーパックしかない誠一郎の家に 紅茶を二つ用意した。
一つはマリアージュのダージリン。
そしてもう一つは、マンダリンオリエンタルホテルのオリジナルブレンドだ。
誠一郎はあまりにも豪華な食事に驚いた。
理緒の料理の概念では、本格的なものが料理となっているようだ。
バレエもピアノも料理も、理緒は凝り性だ。
手を抜かないというか、全て、完璧に極めたいのだろう。
「…あの、お嫌いでした…?」
呆然と、テーブルを眺める誠一郎に、理緒が心配そうに声をかけた。
「いえ、とんでもない、ただ、驚いただけです…」
「おくちに合うといいのですが」
二人で「いただきます」をしたが、誠一郎は、どこから箸をつけて良いのか分からない。
誠一郎が戸惑っていると、理緒が
「こっちらは椀物でハモのお吸い物です。
箸付は、この三品で、左から山芋の角切りの紫しそ漬け、真ん中が魚の煮こごりをゼラチンで固めたものです。
隣はウニの茶碗蒸しです、そのままお召し上がり下さい。こちらのスプーンを使ってどうぞ。
焼き物は銀鱈(ぎんだら)の京西漬けと、
冷めてしまってますがメインはステーキです。
デザートは冷蔵庫に二種入っています。
メロンと、杏仁豆腐です。
ご飯は誠一郎さんの炊飯器を借りました。
漬物を3種用意し、お味噌汁は、赤だしです」
理緒は料亭の女将のように料理の説明をする。
「この皿は…」
誠一郎は、見たこともない高級感が、ただよう皿を見た。
「自分の家から持ってきました。
シェフには皿にもこだわるように言われたので…
箸付は、静か目に益子焼を使いました。
椀物は、有田焼です。京西漬けとステーキは備前焼です。デザートは九谷焼のお皿にしました。
こだわってしまうとつい持ってきてしまって…」
やはり料亭の女将のように、皿の説明をスラスラする。
大きな袋が理緒の後ろにある。全て詰めて持ってきたらしい。そして、キッチンに、タッパがある。
理緒は、
「あ、あれは、出汁が足りなくなったときの為に…
誠一郎さんのキッチンをあまりを汚したくなかったので、ある程度作って持ってきました」
理緒は、本当に何でも本格的にやるタイプだ。
亮二は毎日、こんな料理を食べていたのだろうか…
「では、いただきます」
「はい」
とりあえずハモのお吸い物を口にした。
優しい出汁で美味しかった。
少し柑橘系の香りがするー
「あ、気づきました?お吸い物にはカボスを搾ったものを入れました、香り付けです」
そんなことまで理緒はやるのかー
「料亭では、よくそのように出されますので」
どうりで、こんなにいい香りがする訳か…
山芋のしそ漬けも、よく染み込んでる。
「シソだけでは味気ないので蜂蜜も少し混ぜました。お口に合えばいいのですが…」
「いや、全部美味しいよ」
誠一郎は、あまりの理緒の凝った料理の腕に、ただ、驚いた。
亮二が同窓会の時に理緒の料理の腕を自慢していたのも分かる。
こんなのを、毎日食べさせてもらっていたら、それは嬉しいだろう。
誠一郎は、とにかく、驚きながら食べていたが、そのうち、食べるのに夢中になった。
誰かの手料理なんて久しぶりだ。
本当に美味しい。
こんなに豪華なご馳走は、久しぶりだ。
外で食べるのでなく家で食べれるなんて…
それも、好きな人の手作りで…
そう思うと、どんどん箸が進む。
京西漬けもステーキもあっと言う間に食べたところで、ふと、理緒を見た。
理緒は座りながら眠っていた…
椅子から倒れそうだ。
「ちょっと、あなた!」
そう声かけとっとき、理緒はハッと目を覚ました。
「あなた大丈夫ですか?疲れているんじゃ…?」
理緒が、再びうっすら目をつぶって椅子から倒れた。

