ワインとチーズとバレエと教授



理緒が早速、

「紅茶が良いですか?
コーヒーが良いですか?」

と誠一郎に訪ねたので

「あなたの好きなもで」

と、誠一郎は返した。

「では、マリアージュの紅茶をお出ししますね、
とても良い香りですよ」

そう言って、理緒が紅茶を入れた。

そのカップ&ソーサーは
ロイヤルクラウンダービーだった。

「あなたは、ずいぶん
陶器に詳しいようですね」

「えぇ、まあ、そこそこ勉強しました」

そして高そうなカップ&ソーサーと共に、高そうな紅茶が注がれた。

その香りは、とても甘く不思議な香りがした。

「マルコポーロと言います。ダージリンや、アッサムやアールグレイもありますが、マリアージュの紅茶はこれが一般的です。
宜しければどうぞ。香りは甘いですが飲んだら爽やかです」

誠一郎はそれを一口飲むと、今まで飲んだこともない洗練された紅茶の味がした。

それはとても甘い香りがするが
クドくなく、柔らかくホッとする味だ。

「こんなに紅茶が美味しいと思いませんでした…」

「私の一番好きなブランドです」

誠一郎は、こないだ自分のマンションで理緒に出したティーパックの紅茶を思い出し、恥ずかしく思った。

理緒は、ホテルで出るような三段トレイの中に
お菓子などを入れ誠一郎の前に出した。

ずいぶんと、凝った食器が多い。

そして、どこからかスープの香りがする。

「夕飯を作っていましたか?」

「えぇ、本日、栄養士さんから
もらった献立表でスープを作っていました」

「夕飯時に申し訳ありませんね」

「いえ、そんなことありません、宜しければ、スープも飲んで行かれます?」

「…では、いただきます」

誠一郎は理緒の手作りスープを飲んでみたかった。

「簡単な野菜スープですが、今これしか出来ません…」

誠一郎は、出されたスープを飲んだ。

「…とても、美味しいです」

非常に美味しかった。ホテルで出るような繊細な味だ。そしてとても優しい味で薄味だった。

「あなたは薄味が好きなのですか?」

「えぇ、味覚の感覚が鋭くて…」

そうか、理緒はアスペルガーだ。食感や味が敏感なのだろう。理緒は、料理なら何でも作れるようだった。それは誠一郎がひそかに理緒のインスタの写真を見たとき分かった。

フレンチやイタリアンや懐石など、凝った器で、よく写真がアップされていた。

亮二は、いつもこんな料理を食べていたのだろうか…?

誠一郎は亮二のことは、いったん忘れてさっそく本題に入ろうとした。

「今日は、あなたを不愉快な思いで帰させて、申し訳ありませんでした」

「何のことです?」

理緒は何事なかったかのように、テーブルに、ティシュやカトラリーを置いた。

「あなたを娘さんと言われて、ちょっとムッとしてしまいました」

「それでですか…何で先生が怒っていらっしゃるか
わからなくて…」

理緒がまた、いつのまにか、誠一郎の呼び方が"先生"に変わっている。

「あなたとの年の差を考えていました。
それを私は気にしていました。あなたはもう28になるとは言え、私とは17歳も歳が離れています。
そう思われても仕方ないのですが…あなたを娘と呼ばれてなんとなく…」

誠一郎は、言葉につまった。

「そんなこと、お気になさらないでください」

「いえ、私が大人気ない態度でした」

誠一郎は申し訳なさそうに顔を伏せた。


「そしてあの、馴れ馴れしい一橋早苗のことなのですが…」

誠一郎は、一呼吸置いて

「前にあなたに言った、結婚を考えていた女性が早苗です」

「そうでしたか」

理緒は、もう、どこかで分かっているかのような
顔つきだった。

「でも、安心してください、彼女とはもう、何もありません、むしろ私たちの恋愛を応援してくれています」

「それは分かっています。
今日は、早苗さんにお気遣いいただきました」

やはり理緒は、聡い人だ。
いろいろと、空気だけで分かっているらしい。

「あなたを心配させたくなくて…今日、来てしまいました。
私が大人気ない態度をとって申し訳ありません。
そしてあなたを2時間も待たせてしまって…本当は疲れているでしょう」

「いえ、そんなことは…」

そう言う理緒の顔から少し疲れが見えた。

誠一郎が何気にベットを見ると、そこには、となりに丸い猫脚のテーブルがあり

ペットボトルや薬や、コンビニのおにぎりなどが
置いてあった。

まるで、そこで食事を済ませているかのようだ。