ワインとチーズとバレエと教授



もう昼の1時半になっている。
理緒を2時間も待たせてしまったー

誠一郎が急いで向かった先に、理緒が一階の食堂の前の椅子に座っていた。

誠一郎が理緒に近づくと、それに気づいた理緒の顔は、ぱぁっと明るくなった。

「お忙しい中、ランチに誘ってくださり、ありがとうございます」

と理緒が頭を下げた。理緒のそんな礼儀正しいところが好きだ。

「今回も、あなたを待たせてしまいましたね、お詫びに、何かご馳走します。好きなものを選んでください」

そう誠一郎は、言ったが、前回と同じように、最初から奢るつもりでいた。

理緒は

「じゃあ、いつものデミオムライスで」

と微笑んだ。

「あなたはこれが好きですね」

そういう誠一郎も、いつもの和風定食を頼んでいる。

二人が席について、すぐ食事が運ばれて来たので
二人で「いただきます」をした。

理緒が美味しそうにデミオムライスを
頬張ってるところを見ると、誠一郎は心がホッとした。

誠一郎は、理緒と会う前に、血液検査のデータを見ていたい。

案の定、トータルプロテイン、いわゆるタンパクが低く、ケトン体はプラス4もあり、血糖値も60しかなかった。栄養失調だった。

「山本先生は何と言ってましたか?」

誠一郎は、山本医師との会話が、気になった。

「こないだの血液検査の紙を見せてもらって、タンパクが少ないと言われて…栄養士さんから、栄養指導をされて、1日の食事管理の表を渡されました」

理緒が一日の献立表を見せてきた。

「これにそって食べてくださいって…」

誠一郎がそれを見て

「そうですね、あなたは、もっと食べなきゃダメです」

と言うと

「これでも食べてます。バレエをしてたので栄養管理は今更、言われなくても…それに、もうバレエはしてないし、そんなにエネルギーも使わないので…」

そう言う理緒に誠一郎は

「それでも生きてるだけで、基礎代謝は使います。
あなた、いったい家で何を食べてるんです?私は毎日心配です」

と言ったとき、

「あら藤崎先生!」

年輩の外来受付女性がトレーを持ってやってきた。

「あ、これはどうも…お疲れ様です…」

と誠一郎が挨拶すると受付女性は

「あら、先生、娘さんとランチですか?微笑ましいですね」と微笑んだ。

理緒は一瞬固まり、誠一郎はなぜかムッとした。そして誠一郎は何を思ったか

「…妻です」

そう言い放った。その言葉に理緒は驚いた。そして受付女性は、大慌てで

「……こ、これは大変失礼いたしました…!あまりにもお若いので…奥様だとは存じ上げず、失礼いたしました」

と何度も頭を下げながらその場を後にした。
誠一郎はムッとしたままだ。亮二と一緒にされたくなかった。

そして誠一郎は理緒との歳の差を気にしていた。理緒を「娘」扱いされるのも嫌だった。やはり他人から見ると、理緒は娘に見えるのだろうかー?

「誠一郎さん…」

理緒が心配そうに誠一郎を見つめる。

「あなた、早くオムライスを食べてください」

「…誠一郎さん、怒っているの?」

「別に怒っていません」

でも、あからさまに不機嫌になった誠一郎を見て、
理緒は困惑した。

「……私、もうここの食堂に来ない方がいいかしら?」

「誰もそんな事、言ってません」

「…じゃあ、なぜ怒っているの?」

「ですから、怒ってません!」

「……」

理緒は、なぜ誠一郎が不機嫌か分からなかった。自分が何かしたのだろうか?2時間も誠一郎を待っていて正直、理緒は疲れていた。それでも誠一郎に会いたくてレストラン前で待っていた。こんなことになるなら帰ればよかった…理緒が席から立ち上がり

「今日はこれで失礼致します…」
と、コートをはおった。

「……え?まだ残ってるじゃありませんか…」

「いえ、もう、十分、頂きました」

「ちょっと待ってください」

「残してしまい申し訳ありません、ご馳走さまでした」

「ちょっと…待ってください!」

理緒が座席から立ち上がり、それを誠一郎が静止しようとしたとき

「あら、こちらがウワサの彼女さん?」

一橋早苗が、コーヒーを持ちながら、ニッコリ微笑んで、こちらにやってきた。