ワインとチーズとバレエと教授

朝日が二人の時間を邪魔するようだー
誠一郎はそう思った。

昨日は、理緒に言われた意外な言葉で、眠れなかった。

理緒は自分が思っているより察しが良く、空気を読んでいる。

何より昨日、書籍から理緒が選んだ
「ゲーデル、エッシャー、バッハ―
あるいは不思議の環」は、
数学・対称性・知能の基本概念を実例と分析を通して、音楽、物理、数学、不完全定理、そして、パズルと暗号を通し、終始、非常に難解な本であり、それを好んで読んでいた。

理緒はバレエだけでなく、知的だと思ったのと、誠一郎の自分でも気づかなかった「傷」を言い当てたのは意外だった。

何となく眠れない夜を過ごしたが、
理緒が側にいるだけで今はいいと思った。

病院に出勤する前に、理緒をマンションに送らなければ…

少し早めに起きようと思ったが、隣で理緒がスヤスヤ眠っている理緒を起こしたくなかった。
その寝顔はいつ見ても天使のようだ。
本当に美しいー
誠一郎は、理緒の寝顔を見つめていると、
理緒が薄っすら目を覚ました。

「…せ…いちろ…さん」

もう、昨日の「先生」から
「誠一郎さん」に戻っている。

「…はい、おはようございます
起こしてしまいましたね…」

誠一郎は、理緒のほほにキスをした。

理緒はうっすら微笑み、誠一郎にキスをした。

「…幸せ…」

理緒は昨日から何度もその言葉を言う。

「私も幸せです。今すぐにでもあなたを抱きたいところですが、あなたをマンションに送り届けないと…」

そう言うと、理緒が赤くなる。

「……二日間も一緒に過ごしてくださり、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ」

理緒がペコっと頭を下げた。そんなところも健気で可愛らしい。

「朝食を作りますね、また冷凍食品ですが…」

誠一郎が起きると理緒もベッドから出た。

「私は朝食は必要ありません。
誠一郎さんがコーヒーをお飲みなら、一緒に頂きます」

誠一郎は、本当は何か食べて欲しかったが

「では、コーヒーを入れますね」

と、今回は理緒に任せた。

朝食とコーヒーが出来上がる頃、理緒はピンクのドレスワンピースに着替え、メイクをし、髪を整えて洗面所から出てきた。

そうだ、ずぶぬれのドレスで理緒と会ったのだ。
今も、どこかのご令嬢が出てきたようだ。

「…あの、パーカーやシャツ、
お貸ししてくださり、ありがとうございます」

理緒がキレイにたたんだ、誠一郎のパーカーやシャツを渡してきた。

「…いえ、これしなくて申し訳なかったですね、
コーヒー、飲みますか?」

エスプレッソマシーンで二杯のコーヒーが出来上がった。

誠一郎は、インスタント味噌汁に、冷凍の和風定食をレンジで温めたようだ。

二人で頂きますをし理緒がコーヒーを飲み

「誠一郎さんの入れてくれたコーヒーは美味しいです」

と、微笑んだ。

「機械が入れてくれてますが、そう言ってくれて
ありがとうございます」

誠一郎も微笑んだ。

コーヒーを飲みながら
理緒がカバンから薬を出した。

そうか……

誠一郎も、すぐ気づき
冷蔵庫からミネラルウォーターを手渡した。

「…ありがとうございます…」

「…いえ…」

今は元気とはいえ家に帰った理緒が無理をしないか心配だった。
出来れば、このまま帰したくない…。

いっそ、同棲でも…いや、それは早すぎるか。

誠一郎は、穏やかな微笑みを浮かべながら、コーヒーを飲んでいる理緒を見つめた。