2022年5月ー

「まいったな…」

誠一郎は、医学部の同期であり、親友でもある、津川亮二の養女となった津川理緒の紹介状を教授室で受け取った。

そこには、電話帳並の分厚い理緒の今までの
入院歴、家族歴、治療歴、手術歴、検査データや
現状の病状がびっしり書かれてあるカルテのコピーがあった。


津川亮二が数年前、虐待にあっている歳の離れた
親戚の女の子を養女として引き取った話は風のうわさで聞いていた。

当時、亮二には妻がいた。金遣いが荒く、バーキンだの、エルメスだのブランドモノを買い漁り、亮二のことなど放ったらかしで、若い男と不倫していた悪妻だ。

しかし、亮二も亮二で医者として、脂が乗っていた頃だから浮気の一つや、二つはしていたと聞いていた。

そんな夫婦が離婚するのも時間の問題と周囲も薄々気付いていたが、突然、数年前の医学部同期の同窓会で

「親戚で長年、虐待されていた。22歳の女性を養女として引き取った。まだ父親もしたことのないオレだかその子を、医者としても父親としても面倒をみてやりたい」

なんて言い出すから同期の連中はビール片手に拍手喝采。

亮二は外科医としての腕もあったが、同時に正義感も持ち合わせた人物だった。同僚や患者からも好かれ、外科部長と役職も高くなっても、鼻を高くして、ふんぞり返る奴ではなかったが、まさか妻と離婚し、虐待されている親戚の娘を引き取るなどの慈善事業をやってのけるとは周囲の仲間も誠一郎も驚いた。

そのときの同窓会は、亮二の第二の人生の告白で大いに盛り上がった。