ワインとチーズとバレエと教授

理緒はダランとしながら、横向きになり、窓ガラスを叩く雨を見つめていた。

誠一郎は横向きで、理緒を抱きしめ、同じく窓を見つめていた。

さっきよりマシになったがまだ激しい雨だった。
二人共、先程の快感にまだ酔いしれていた。

誠一郎は理緒が起きているか確認すると、目は空いていた。理緒も「なに?」という顔で誠一郎をゆっくり見つめた。

「…明日、良ければ私のマンションに来ませんか?何もないですけど…」

「え?先生のマンション行ってもいいの…?」

ぼんやりしていた理緒の目が、ぱぁと開いた。
本当に分かりやすい。
「…えぇ、散らかってますが」
誠一郎は、山本医師に言われた「結婚」というキーワードを意識した。

理緒とは、将来の事を少しでも早く意識してもらいたくてマンションに誘った。

「わぁ、嬉しいわ…私に手料理を作ってと仰ってましたものね」

確かに、動物園のときそんな事を言った。
でも、食事を作って欲しくて呼ぶわけではなかった。

「あは、あなたの体調の良い時に、いつか作ってくれたら嬉しいです。あいにく、今は冷蔵庫の中は空っぽで冷凍食品しかありませんただ、あなたを呼びたくなりました」

「嬉しいです……」

理緒がまた顔を赤くさせる。
何を想像しているのだろう。
自分に料理を作る理緒?
自分とコーヒーや紅茶を飲む理緒?
それとも、また抱き合い
離れられなくなる理緒?

「先生はプライベートを大切にされる方なのに、
どうして私を…?」

的確な質問だった。誠一郎は、プライベートを尊重されたい。一人の時間が欲しいタイプだ。
でも、「結婚を意識して欲しいから」とはまだ、言いづらい。

「……あなたとなら、一緒に居たいと思ったのです」

理緒がまた照れる。

「それと、あなた、いつまで私を"先生"と呼ぶのですか?とっくに患者は卒業したでしょ?」

「…じゃあ、誠一郎さん…?」

「はい、これからはそれで」

誠一郎はそう言うと、理緒の髪を撫でた。

「でも、せん…誠一郎さんだってずっと私を"あなた"と呼んでいるわ」

「いいじゃないですか、あなたは、あなたで」

「せん、…誠一郎さんがそう呼びたければ…」

少し不満そうだが誠一郎は、名前で呼ぶのが苦手だった。それは、ただの照れだ。

「……ねぇ、誠一郎さん」

「はい」

「どうして誠一郎さんとのセックスは苦しくて、気持ちがいいのかしら…」

「え…」

理緒が突然、返答に困る質問をする。

「えぇっと……」

「私、こうなったことがなかったわ…」

「……」

理緒の経歴を見ればそうだろうなと思った。

「あなたは、嫌でしたか?」

「いいえ…」

「痛かったですか?」

「いいえ…」

「…私はそれが普通だと思いますけど…人にもよるのでしょうが…」

「……そうなのね……」

理緒は経験があっても、あんな生活で、あんなことをさせられていた。でも、今は理緒の身体をないがしろにした人々を思い出させたくない。
誠一郎は理緒にもう一度キスをする。

そして、理緒を二度と離さないと誓った。

翌日ホテルをチェックアウトすると、誠一郎はタクシーで理緒を自分のマンションへ連れて行くことにした。

昨日の雨はすっかり上がり、理緒のピンクのドレスのクリーニングも手際よく終わって、ドレスを着た理緒は 誠一郎のマンションへ訪れた。

誠一郎のマンションはオートロックの近代的な雰囲気の外観で、さらに大学の近くでもあり、閑静な場所にあった。

エレベーターで4階に上がると、そこに誠一郎の部屋があった。