ワインとチーズとバレエと教授

まだ激しい雨が続いていたが、明日は晴れの予報だった。

「…明日、良ければ私のマンションに来ませんか?
何もないですけど…」

「え?先生のマンションに行ってもいいの…?」

ぼんやりしていた理緒の目がぱぁと開いた。
本当に分かりやすい。

「…えぇ、散らかってますが」

誠一郎は、山本医師に言われた

「結婚」

というキーワードを意識した。理緒とは、将来の事を少しでも早く意識してもらいたくてマンションに誘った。

「わぁ、嬉しいわ…私に手料理を作ってと仰ってましたものね」

確かに、動物園のとき、そんな事を言った。でも、食事を作って欲しくて呼ぶわけではなかった。

「あは、あなたの体調の良い時に、いつか作ってくれたら嬉しいです。あいにく、今は冷蔵庫の中は空っぽで冷凍食品しかありません。ただ、あなたを呼びたくなりました」

「嬉しいです……」

理緒がまた顔を赤くさせる。何を想像しているのだろう。

自分に料理を作る理緒?
自分とコーヒーや紅茶を飲む理緒?
それとも、また抱き合い
離れられなくなる理緒?

「先生はプライベートを
大切にされる方なのに、
どうして私を…?」

的確な質問だった。誠一郎は、プライベートを
尊重されたいし、一人の時間が欲しいタイプだ。

でも、「結婚を意識して欲しいから」とは、まだ言いづらい。

「……あなたとなら、一緒に居たいと思ったのです」

理緒がまた照れる。

「それと、あなた、いつまで、私を"先生"と呼ぶのですか?とっくに患者は卒業したでしょ?」

「…じゃあ、誠一郎さん…?」

「はい、これからはそれで」

誠一郎はそう言うと、理緒の髪を撫でた。

「でも、せん…誠一郎さんだって、ずっと私を"あなた"と呼んでいるわ」

「いいじゃないですか、あなたは、あなたで」

「せん、…誠一郎さんが、そう呼びたければ…」

少し不満そうだが誠一郎は、名前で呼ぶのが苦手だった。それは、ただの照れだ。

名前を呼ぶ代わりに、誠一郎は理緒にそっとキスをした。

理緒は驚いた顔をしたが、そのあと、一筋の涙をポロンと流した。

「…夢が…叶ったわ…」

理緒が泣きながら微笑んだ。

「大げさですね、私たちの付き合いはこれからですよ」

すました言葉を言ったが誠一郎だが、理緒を二度と離さないと誓った。