「…どうぞ」 誠一郎は、パイプ椅子に座るよう促した。 理緒は、誠一郎に微笑んでから、少し会釈し、静かにパイプ椅子に腰掛けた。 けっして、椅子の背もたれに背中をつけず、両足は斜めに流すようにくっつけ、白いハイヒールが栄えていた。 その立ち居振る舞いは美しく、無駄がない。ヒザに乗せた両手の指先まで、美しく見えるほどだった。 そして、理緒は澄んだ目で誠一郎を見つめた。誠一郎は、この瞬間、まだ彼女と何も話していないのに身構えた。なぜ身構えたかは、その時は分からなかった。