ワインとチーズとバレエと教授



翌朝、理緒は誠一郎のLINEで目を覚ました。

「昨日は素敵な時間をありがとう。
次、会うときまで元気でいてください」

との文章と共に、理緒が動物たちと触れ合っている写真をアルバムにして送信されてきた。

ベットで横になっていた理緒の顔がぱぁと、明るくなった。朝から素敵なLINEをもらった。

フクロウのポポちゃんと写っている写真は、すぐに理緒のお気に入りになった。

理緒はすぐ
「おはようございます。素敵なお写真をありがとうございます」

と送信した。

誠一郎は、必ず朝にLINEをくれる。それが二人の日課になっていった。

理緒が次に誠一郎に会ったのは、一週間後の、内科外来のあとだった。

いつも通り診察を受けて、血液検査をし、
少し貧血気味で、栄養失調気味であることと、炎症反応があるのでもっと、静かな生活を促された。

診察が終わり、誠一郎の外来が終わるのを一階のロビーで待っていた。

かつては、自分がこの日、誠一郎の外来を受けていた。そう思うと懐かしい。

昼の1時半頃、誠一郎が、ようやく一階のロビーにやってきた。

「すみません、お待たせしました、外来が混雑していまして…」

誠一郎は急いで来たのか、少し息が上がっていた。

「いえ、お忙しい中ありがとうございます」

理緒が頭を下げた。誠一郎は、さっそく理緒を、大学病院の一階にあるレストランへ誘った。

ここは、かなり広く、病院関係者も患者さんも、その家族も利用出来る、ホテルが経営してるレストランだった。

「本日のおすすめ定食」

など、安くてバリエーション豊かなメニューが沢山ある。ここは、オムライスが有名らしい。

「何か食べたい物はありますか?2時間もあなたを待たせてしまいましたね、ご馳走します」

そう言うが誠一郎は、最初からご馳走してくれる
つもりでいたのだろう。

「ありがとうございます…えっと……」

名物のオムライスが食べたいが、全部食べれない。

コーヒーとケーキだけで十分なのだ。

「どうしました?迷ってますか?」

「…私、全部食べれないので…コーヒーとケーキをと…」と言うと

「それは良くありませんね、あなた、血液検査の結果、貧血でしたね?タンパクも基準値を下回ってました、ケトン体はプラス4です。何か食べないと」

誠一郎は、理緒の内科の血液検査のデータを全て見てきたようだ。

「のぞき見したんですか?」

理緒がプイッと顔を背けた。

「あなたのことが心配で拝見しました。、一体、毎日何を食べているんです?ケトンがプラ4は過激なダイエットをしている人か、妊娠中、つわりがひどくて栄養失調になる人にしか起こりません。それに、あなたの体調管理も含めて、付き合っているつもりです」

やっぱり誠一郎は医者だなと、理緒は思った。
それは、決して嫌な気持ちはしなかった

「……デミオムライス…」

「え?」

「このレストランで有名なデミオムライスが食べたいです。でも、全部食べきれないので…」

「でしたら、残したなら私が食べます」

誠一郎は笑顔で食券を買った。
誠一郎は「本日の和食定食」をチョイスしたようだ。やっぱり和食が好きらしい。

食券を2枚持っていき、番号札を渡され、テーブルに置くシステだった。

「あの、ありがとうございます」

「いえ、これくらい…内科では何と言われましたか?」 

「栄養を取るようにと…炎症反応があるので
休むように…あと、いつも通り薬が出ました」

「…そうですか」

誠一郎は、この状況を、あまり芳しくないと判断したようだ。 顔つきが険しくなった。

「しばらくデートは室内にしましょう」

誠一郎はすぐ笑顔に戻り、そう言った。

「私は先生となら、どこでも…」

理緒が少し恥ずかしそうに言った。

「学会が終わったら、ゆっくり出来そうなので
オーケストラやバレエなど観に行きますか?」

「そっ…そんな…私の趣味に付き合わせるだなんて…」

「いいではないですか、あなたは、詳しいのだから
教えてください」

誠一郎は、意外に謙虚だと理緒は思った。
そんな話をしているうちに

「お待たせしました、和風定食の方」

と、ウエイトレスがランチを持ってきた。
理緒の目の前には、デミグラスソースと、生クリームでデコレーションされた名物のオムライスが運ばれた。

「わぁ…美味しそう」

「ここのオムライスは有名ですよ」

誠一郎は微笑んだ。そして二人で頂きますをして
ランチを食べた。

「美味しい…」

理緒が大学病院のレストランとは思えない味に、感動していた。

「だから、有名だと言ったでしょ?」

誠一郎も、微笑みながらサバの味噌を食べている。

「先生は、和食派なのですね」

「まぁ、健康のことを考えたら、和食がちょうどいいです。飲み会などでは、そうはいかないので、こういうときに節制しておかないと」

細身の誠一郎が節制する必要はなさそうだが、健康には気を遣っているらしい。

そして、さっきまで精神科で患者さんを診ていたはずだ。誠一郎は、微笑んでいるが、理緒が以前、誠一郎に言った「もう疲れたの!」「私は死にたいの!」という患者さんもいたかもしれない。
そう思うと、理緒は胸が痛くなった。

「……美味しくないですか?」

誠一郎は心配そうに覗き込む。

「あ、いえ、ただ…先生が無理してないといいなと…」

余計な事だがそう思った。

「あは、今日の外来は順調でしたよ、あなたのように、聞き分けのいい患者さんばかりで助かりました」

ちょっと嫌味を言う誠一郎は健全なままだ。

「次の学会ですが一週間後、東京です。
その次の週、あなたの行きたい場所に行きましょう、ただし、室内で」

「ありがとうございます…私は先生とならどこでも…」

なんとなく、遠くに出張してしまう誠一郎をさみしく思った。それを察したのか、

「たった、3日間東京に出張するだけです。朝は必ずLINEします。あなたは、本当に分かりやすい」

誠一郎は理緒の顔色がコロコロ変わるのを面白がっていた。

「気をつけて行って来てくださいね」

「あなたは、体調を良くしておいてくださいね、もっと食べないとダメですよ」

「…はい」

理緒はオムライスをパクっとほおばった。
本当に美味しい。

デミグラスソースは濃厚だけど、くどくないし、卵はフワフワで、ライスのケチャップもあっさりしていて生クリームのグラデーションが素敵だ。

理緒はめずらしく、オムライスを食べるのに夢中になった。

お腹がすいたいのだろうか?
オムライスが美味しいのだろうか?
誠一郎がいるからだろうか?
半分以上は食べれた。残りの三分の一はどうしても無理そうだ。

それを察してか

「あなたにしては、よく食べたほうですね、もういいのですか?」

「…はい、食べたいけど、お腹がいっぱいで」

誠一郎は、オムライスの皿を、自分の手前に持ってくると残りを食べてくれた。

「あなたと短い時間でもランチを一緒にできて良かったです」

誠一郎はそう微笑んだ。理緒も同じだった。

レストランの前で二人は解散した。
二人共、名残惜しかった。でも、二週間後、会える。

「次に行きたいところを、決めておいてくださいね」

「私の行きたいところは、先生が行きたいところです」

「そうですか?私とならどこでもいいと?」

意味深に言う誠一郎の言葉に、理緒は少し赤くなった。それを見て誠一郎は笑った。

二人はもう、誰から見ても恋人同士だった。