ワインとチーズとバレエと教授

その友人は、当時結婚式場で働いており、メイクやらヘアーセットなどワガママな花嫁の下僕のように働いていたが、この仕事に、やりがいも感じていたそうだ。

そして、当時、オートクチュールのモデルを探しており理緒に白羽の矢が立ったという。

「さすがオレの姪だ、あのオートクチュールを着た
理緒のモデル姿は本当に見違えるほどきれいだった。まるで父親の気分だ」

そう誇らしげに亮二が話していた。さらに、ピアノも習い始め、バイオリンという基礎があったせいか半年でバイエルの上級を終わらせ、今はラフマニノフをひきたがっていると亮二が嬉しそうな顔で語っていた。

その話を聞いて

「まるで、シンデレラだ」

と、他の同期の医者が突っ込んだ。そして、誠一郎も同じ感想を持ったが、口に出しては言わなかった。亮二の善意と献身的な介護が彼女をここまで成長させたのだろう。

それを、揶揄(やゆ)したくなかったし、ちゃかしたくもなかった。もし、亮二が彼女との物語を少し大げさに語っていても、それくらいは、許されるものだろうとも思った。

もしその話が本当なら、亮二は白馬の王子様だ。いや、本当の父親以上に父親なのだろう。そして、理緒は、今まで経験できなかったセレブリティな生活の中で、食べたことのないものを食べ、行ったことのない地を訪れ、読むことがなかった本を読み、教養を身につけ、見聞を広めた。

まるで、今まで禁止されていたことをいっきに埋めるかのようにー精神科医の誠一郎にはそう感じた。