カラン、カラン。

店のドアが客を来たことを知らせた。


「いらっしゃいませ」

 誰もいない店内に、今日初めての客だ。

まだ午前中で、営業がはじまってスグだから仕方ないんだけど。


 おそらく四十代くらいのおじさん。

あたりをざっと見回して、まっすぐオレの前のカウンターに座った。


「アメリカン、一つ」

「はい」

 オレは愛想良く笑った。



 天気がいいこの日。

今頃体育館でそわそわしている学生たちにとっては、きっと始業日和だろう。


 コポコポとコーヒーメーカーが音を立てるこの音が、オレは好きだ。


ゆっくりと音を堪能しつつマグカップにコーヒーを注いでいるとき、おじさんに声をかけられた。


「…お兄さん、男前だねぇ」

 いきなりそんなことを言われ驚いたけど、差し障りないようにちょっと笑って答えた。


「どうも」

 ソーサーにのせて差し出すと、少し寂しそうにおじさんはコーヒーを見つめてた。


 なんだか放っておけなくて、たまらずオレ専用のマグカップを取り出し、同じアメリカンコーヒーを淹れた。


「お兄さん、高校生?」

 カップに口をつけたときに聞かれた。


「あ、はい」