来ない。
何かあったのか?



 外は真っ暗で、オレ専用マグカップの中身も空っぽだ。

シミにならないように、シンクに水を張ってカップを洗い始めた。


「今日も来なかったね」


 奥から寂しそうな声で呟いたのはマスター。


一昨日、サトにキスされたのをチビ助に見られた。


 そもそもなんであんなことが起きたのかわからない。

本当はこの店にくるのだって、オレにはかなり心臓バクバクしたんだ。



 思い出す、あの帰り道。


 結局、仕事はサボってしまったんだけど、マスターからは何も言われなかった。

 どうしてかはわからないけど、全部知っているような気がした。



「きちんと考えるから」

 そう言ったはいいものの、予想通りチビ助を『女』なんかには見れていない。


 どっちかというと、ペットというか妹というか。

 まあ、カワイイ存在ではあるかな?


 それの繰り返しだ。


 カップをスポンジの泡で丁寧に磨き、さっと水に流してかごにいれた。



 逆さまのウサギを見てると、一昨日のサトのような気がした。