ようやく風も温かくなり始めた今日この頃。

結局、あのバレンタインの日に振った雪が、この冬最初で最後の降雪の日になってしまった。


 もっと見たかったな。

と、ほんの少し寂しくも、太一さんの隣で見れたことが最高に嬉しかった。


 一人、思い出し笑いをしていると、再びこっそり声がかけられる。


「太一さん、今日が卒業式でしょ?」

「…うん、もうすぐ終わっちゃうかな」


 チラリと体育館の時計を見ると、卒業式が始まると聞いた時間から一時間が経過していた。


 あたしたちより、先に卒業式を迎える太一さんたち。

到底見に行くことは出来ないけれど、午前授業の今日は、終わったら間に合わなくても向かうつもりだ。


「……─で、ちゃんといえたの?」

 どうやら先生に睨まれたらしい。

杏ちゃんはぴしっと姿勢を正して、真正面を見ながら話しかけてきた。


「………」

 杏ちゃんが言っているのは、多分、太一さんがくれた言葉の返事。


 ……─あとはお前次第だ。

太一さんは留学するって決めて、でもずっとスキって言ってくれた。


あたしはというと、未だにそのキモチを返せていない。


 嬉しいのと同時に怖くて仕方ない。

初めてのことばかりだらけで、不安が底なしのわたあめのように膨れ上がる一方。


 『スキ』という言葉に頼りきれない自分の弱さが、……涙がはちきれそうなほど、とても悔しくなる。