「武井さんはこれまで何をしてたの?」 「何って、、、専業主婦です。」
「そっか、、、、。 専業主婦って世間を知らない人が多いのよねえ。」 「そうかもしれませんね。」
「ご主人はどんな仕事をしてたの?」 「運送業です。」
「じゃあ、これからが大変ねえ。」 「そうみたいでいつも文句ばかり言ってます。」
 事務所から走ること20分。 最初の訪問先、金井君江さんの家に着いた。
「寝返りと摘便ね。 後は聞かなくていいから。」 公子さんは澄ました顔でそう言うと元気良く中へ入っていった。
「おはようございまあす。 おばあちゃんは元気かい?」 「ああ、私はもうダメだよ。」
「そう言って30年生きてるじゃない。 まだまだ死なないよ。」 「そんなこと言ったって、、、。」
「今日はねえ、新人さんを連れてきたからね。 可愛がってやってよ。」 「新人さんなんていいよ。 公子さんだけ来れば、、、。」
「そうもいかないの。 たまには新人を入れないと他の仕事が回らないのよ。」 「他の仕事に回せばいいっしょや。」
「あのねえ、出来ない人をいきなり回しても困るの。 分からん人やなあ。」 「分からんのはお互い様だ。」
こうやっていつも二人は笑い合っているらしい。 少々大きな体を一回転させて次は摘便。
 ちょいとパンツを下ろさせてもらうよ。」 「あいよ。」
成れているとはいっても相手は女性である。 無暗に覗き見するわけにもいかず、私はチラッチラッと拝見する程度に、、、。
と思ったら公子さんが、、、。 「武井さん ちゃんと見てないと何をやるか分からないでしょう? それで分かった振りをされても困るのよ。」
またまた厳しい顔で私に言ってきた。 (ごまかしは通用しないのね?)
「手袋を付けて狙いを定めて奥のほうに詰まっている大便を掻き出すようにするんです。 痛いって言われることも有るけど、それは構わないからやってくださいね。」
実践しながら公子さんはいろいろと説明してくれる。 「時々ねえ、穴を間違える人が居るのよ。 間違えると利用者さんも不安になるから気を付けてね。」
掻き出す作業が終わると洗剤の瓶みたいな容器を取り出して、、、。 「このポンプを押すとぬるま湯が出るようになってるの。 ここに洗浄剤が入ってるからお尻を洗うのよ。」
 公子さんはお尻を優しく洗いながらおばあちゃんと楽しそうに会話を続けている。 「孫娘はどうしたね?」
「姉ちゃんか? 姉ちゃんは昨日帰ったよ。」 「帰ったんか。 寂しくなるなあ。」
「公子さんが居るから大丈夫や。 寂しない。」 「ほんとかねえ?」
「寂しなったら呼ぶわ。」 「呼ばんでいいわ。 呼ばんでも来るから。」
「それもそうやなあ。 あはははは。」 「笑えるだけ元気やなあ。」
「そうか?」 「寝とっても頭は大丈夫やからなあ ばあちゃん。」
「そや。 大丈夫や。」 「まだまだ死なんわ。」
「はように死にたいのになあ。」 「無理や言うてるやろう。 分からんかなあ?」
「分かったら死んでるわ。」 「それもそうやなあ。」
「なんやて?」 「それもそうやって言うたんや。」
二人のバトルは終わることを知らないらしい。 私はハラハラしながら隣で聞いているのです。