モニカは自分からは決して『冷遇』に触れずに、聞かされた人が想像するのに任せていた。
 気の毒に思ったその人は、深掘りせずに同情して、それを他の人に話す。

 それが『ノックスヒルの聖女』が、邸の者達から使用人扱いされている、の噂になっていた。
 エドワーズ侯爵は長年勤めてくれていた忠義者揃いの使用人達でさえ、モニカを助けない不忠者だと入れ替えることにしたのね。



 皆から離れた家、領地を見下ろす丘に建てられたノックスヒルにはそんな噂は届かない。
 私達には、誰も本当かと問い質さない。


 今から思えば、私に『貴方のお父様は中継ぎか』と言ってこられた先輩は、敢えてあんな言い方をして、モニカの虚言を私に教えようとしてくれたのかも知れない。
 母にだけでも伝えなかったのを、今更ながら申し訳なく思った。