私が死を先延ばしにすればするほど、周りにいる人の運命を狂わせてしまうのかもしれない。

 死ななくていいはずの理人や向坂くんが命を落とした。
 次は、蒼くんが……?

(もう、嫌だ)

 悪夢のようなループは、色々なものを奪って壊した。

 向坂くんの不自然な死は、運命を無理矢理ねじ曲げた代償だったのかもしれない。

「……私、もう逃げたくない」

 迫り来る死から。
 過酷な運命から。

「ちゃんと受け入れる」

 やっぱり死を避けられないと言うのなら、私はそれを受容する。

 あるいは結末が変わって生きられると言うのなら、精一杯生きていく。

 この先、どうなるのかは何も分からない。
 でも私は今、生きているから。

 犠牲にしたものは決して小さくないけれど、確かに生きている。

 正解なんて分からない。
 答え合わせもない。

 だけど、それはループのない世界でも同じことだ。

 ただ、駆け抜けるだけ。
 真っ直ぐ生き抜くだけ。

 もう何も出来ない私じゃない。

 理人に殺されなきゃ、向坂くんに殺されなきゃ、分からなかったけれど────。

 もう簡単に折れることはない。
 私は、自分で選んで生きていく。

「そうだね」

 蒼くんはそっと頷いた。

「何が起こるとしても、俺はずっと菜乃ちゃんの味方でいるから」

「……ありがとう、蒼くん」

 最後まで変わらない彼の優しさを受け、噛み締めるように言った。

 今日か明日か、1ヶ月後か、あるいは何年も後か────本来の運命を辿ることになるのかもしれない。

 結局、また先延ばしになっただけで、死からは逃れられないのかもしれない。

 だけど、それまでは。

 本当の意味で命が終わるまでは、理人や向坂くんが遺してくれた未来を信じて、進んでいくしかない。

 いつか来るそのとき、“やり直したい”と後悔しないで済むように。

(……だけど)

 それでも、思わずにはいられない。

(もう一度だけ、時が戻ったらいいのに────)