「たぶんだけど……三澄が死んだせい」

 向坂くんは静かに言った。

 理人の死が原因で、私が死ぬことになった?

「本来死ぬはずだったお前が生き永らえて、生きるはずだった三澄が死んだ。そのせいでこじれた」

 確かに、私は死んでいるはずだった。

 理人に殺されたあの日、それが本来の出来事だった。

 でも、死に際に“やり直したい”と願ったことで時間が巻き戻って、そこから歯車が狂い始めたんだ。

 本来の運命を辿らなかったから。

 歪んだ現在を修正するためか否か、私が別の要因で命を落とすことになった────。

「そんな……」

 だけど、その理屈なら妙に納得してしまう。

 私が必ず死ぬように出来ていることも。

 向坂くんに殺されたり自殺したりする以外には、不可解な死を遂げていたことも。

「でも、じゃあ……どうして向坂くんは私を殺してたの?」

 そう尋ねると彼は眉を寄せ、苦しげに顔を歪めた。

「……お前が死んで最初に時間が巻き戻ったとき、前みたいにお前がまた“やり直したい”って願ったからだと思ってた」

 つまり、これは私の作り出したループだと思っていたわけだ。

「けど、わけも分かんねぇまま何回も死んで、俺も何も出来なくて。……そのうち諦めちまうんじゃねぇかと思った。諦めたらループが終わって、本当に死んじまうんじゃねぇかって、怖くなった」

 そうかもしれない。

 要因不明の死を繰り返して、何に抗えばいいのかも分からなくて。

 記憶がなかったことが幸いだったけれど、どちらにしても時間の問題だった。
 死の苦痛が蓄積していくから。

「だから、俺が悪者になればいいと思った」

 向坂くんが続ける。

「三澄のときみたいに、俺に殺されねぇようにやり直したい、って死ぬたび願ってくれれば、ループを繰り返せるんじゃねぇか、って」

 全然、知らなかった。

 彼の思惑にまったく気付けずに、私は毎日絶望していただけだった。

「それで時間稼いで、本当の意味でお前を救える方法を探してた。……でも、悪ぃ。身体に苦痛が残るなんて知らなくて、余計苦しめたよな」

 私はすぐさま首を左右に振る。

 今日が必ず死ぬように出来ているのなら、どのみち私は死んでいた。

 彼に殺されていようがいまいが、のしかかるループと死の反動は変わらない。