弾かれたように顔を上げ、蒼くんを見やった。

 拍動が苦しく、私の不安を助長していく。

(本当に、殺されて……?)

「なーんて。ごめん、笑えない冗談言った」

 彼は漂った重たい空気を吹き飛ばすように、冗談めかして笑った。

 ……そう、冗談だ。
 私が殺されているなんて、そんなわけがない。

 第一、誰に殺されるというのだろう。

 ループは終わったし、私を殺していた理人だっていない。

 先ほどのあれはきっと、繰り返した3日間の中で私が失った記憶の一部だと思う。

 それがたまたま蘇ってきただけ。

「ごめんね。俺、無神経だったね。でも、あんまり苦しそうだから────」

「ううん、心配かけてごめん。本当に大丈夫だよ」

 申し訳なさそうに俯く蒼くんに、やんわりと笑って言った。

「じゃあ……私、行くね」

 鞄を肩にかけ直し、彼と別れる。

 今度こそ屋上を目指し、階段を上っていった。

 不調や過ぎった光景のこと、向坂くんに相談してみようかな?



 屋上へ繋ぐドアの小窓から、朝の柔らかい光が射し込んでいる。

 向坂くんは壁に背を預け、億劫そうに立っていた。

 私に気付くと、身を起こして数段下りてくる。

「今日は遅かったな」

「うん……、ちょっと」

 昇降口でのことや刺すような痛みのことを言おうとしたが、なぜか言葉が詰まって声が出なかった。

 何かに阻まれているかのように何も言えなくなって、場に沈黙が落ちる。

 鞄とミルクティーを置き、倦怠感を紛らわせるように段差に腰を下ろす。

 向坂くんも同じように座った。

「……大丈夫か?」

 彼は前屈みになり、目を伏せた私と視線を合わせて尋ねる。

 向坂くんにも心配されるとは、よっぽどひどい顔色をしているのだろう。

「死にそうな顔してる?」

 私は曖昧に笑って首を傾げた。

「……あ?」

「ちょっとね、疲れてるみたい」

 眉を下げ、思わず息をついた。

「だいぶしんどそうだな。三澄のせいで寝れてねぇんだろ」

「寝不足なのはそうだけど、理人のせいってわけじゃ……」

 いや、そうなのだろうか。
 理人のことを考えてしまうから眠れないのは確かだ。

 一拍置いて、向坂くんが口を開く。

「……なぁ、なら俺が眠らせてやるよ」

「え?」

 何を言っているのだろう、と彼を窺えば、彼はその手にペティナイフを持って掲げた。

 一瞬、呼吸が止まる。

 瞠目した瞳は瞬きすら忘れる。

 硬直したように身体が強張る。

「永遠に、ってわけにはいかねぇけどな」