「でも無理しないでよ? 菜乃ちゃんまで倒れたら大変だし」
蒼くんは心配するような眼差しを注いでくれる。
その態度も、呼び方も、全然違うはずなのに────何だか理人を彷彿としてしまって、感情が揺れた。
「ありがとう……」
不安定な心が涙の気配を滲ませるから、私は急いで踵を返した。
今泣いたら、きっと止まらなくなる。
そのまま屋上へ歩いていこうと踏み出したとき、ツキン、と胸に鋭い痛みが走った。
「……っ」
心臓か肺かよく分からないけれど、咄嗟に押さえると足が止まる。
そこから広がる鈍痛に思わず顔を歪めた。
「え……大丈夫?」
「あ、う、うん。大丈夫だから」
慌てた蒼くんが優しく背中に手を添えてくれる。
“大丈夫”と答えたものの、一番戸惑っているのは私自身だった。
この痛みは何なのだろう。
これも寝不足のせい……?
不意に頭痛がした。
閉じた瞼の裏側に不鮮明な映像がちらつく。
(何……?)
誰かがナイフを振り上げ、私の身体に突き立てる────。
今朝見た夢とか、だろうか。
それとも、理人に殺されていた頃の記憶?
いずれにしても不穏な、悪い予感がする……。
「ねぇ、顔色が真っ白だよ。辛いなら保健室に────」
「平気! 本当にごめんね」
どく、どく、と心臓が嫌な音を刻んでいく。
心の内がざわめき、恐怖心が這い上がってくる。
そんなわけがない、と思いたかった。
信じられない。
(でも、この感覚……)
誰かに殺される夢を見たと思ったら、実際は夢じゃなく現実で、失った記憶の断片だった────。
それは以前、理人に殺されていた私が最初に覚えた違和感と気付きの糸口だった。
(……似てる)
今過ぎった光景が、もし本当に記憶だったら。
まさか、私は────。
「……もしかして、本当に殺されてたりして」